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ホワイトカラー訴訟の最新情報 (21/12/09)
第二巡回裁判所、外国籍の被告に米国による治外法権的な起訴に対抗する強力なツールを提供
ここ数年、米国の検察官は、米国外で発生した行為について外国人を起訴することにますます積極的になっている。このような訴訟が提起されると、検察官は、米国に自首せず、海外に留まっている外国人被告は、過去に米国に足を踏み入れたかどうかに関わらず、また、被告の本国が現地の法律に基づいて引き渡しを拒否した場合でも、彼らが「逃亡者」であると繰り返し主張してきた。そして、裁判所は「逃亡者権利剥奪法理(Fugitive Disentitlement Doctrine)」を適用して、そのような被告が後になって自分に対する訴えに異議申し立てを行うことを排除してきた。そのため外国籍の被告人は、自国の法制度の保護を放棄し、生活、家族、仕事を捨てて米国での未決拘禁のリスクを冒し、米国で起訴に対して争うか、さもなければ自国に留まり、犯罪者としての起訴と「逃亡者」の汚名を無期限に着せられるか、というホブソンの選択を迫られてきた。
しかし、第2巡回区控訴裁判所のU.S. v. Bescond (2021 WL 3412115 (2d Cir. 2021))における最近の判決は、(a)疑惑の犯罪行為が発生した自国に留まり、(b)それを「隠したり逃れたりすることなく」行う外国人は、「逃亡者」の定義を満たしておらず、逃亡者権利剥奪の法理に基づき権利を剥奪することはできないとしており、この問題を解決するものと思われる。この判決は、米国で刑事訴追を受けている外国人が、一定の状況下で自由を損なうことなく訴えに異議を唱えることを可能にする重要なものであり、拡大する米国刑法の域外適用を牽制する重要な役割を果たすものと考えられる。
Bescond氏に対する訴訟
Muriel Bescond氏はフランスに住むフランス人で、フランスの銀行Société Généraleでトレジャリーデスクの責任者として働いていた。2017年、ニューヨーク東部地区の米国検察当局はBescond氏を起訴し、商品取引所法(CEA)に違反して虚偽、誤解を招く、故意に不正確な商品報告書を送信したとして4件の罪、および同行為を行うための共謀の1件の罪で起訴状を提出した。具体的には、Bescond氏は、2010年5月から2011年10月にかけて、LIBORとして知られる米ドルのロンドン市場における銀行間取引金利を操作するスキームに参加していたと起訴された。
Bescond氏は、疑惑の犯罪スキームの間、常にフランスにいて、起訴後も居住し勤務していたパリに留まっていた。フランスは自国民の引き渡しを行っておらず、Bescond氏は当裁判所の管轄権に服することはなかった。 彼女は弁護士を通じて、起訴状が米国との十分な関連性を主張していないために修正第5条のデュープロセスに違反していることや、CEAの許容できない域外適用を用いたものであることなどを含む複数の理由で、訴えの棄却を求めた。
Bescond氏が起訴されてから自発的に渡米していないことから、連邦地方裁判所は彼女を逃亡者とみなし、逃亡者権利剥奪法を適用する裁量権を行使し、彼女の申し立ての是非について言及しなかった。Bescond氏は上訴した。
逃亡者権利剥奪に関する第二巡回裁判所の判断
控訴審において、第2巡回裁判所は第6巡回裁判所および第11巡回裁判所とは異なって、逃亡者権利剥奪命令は付随的命令の法理に基づき即時控訴可能であると判断した。逃亡者権利剥奪の分析の本質に目を向け、裁判所はまず、「『逃亡者』という言葉の通常の意味は、Bescond氏を説明するものではない」と指摘した。なぜなら、逃亡とは米国から距離を置く、逮捕を阻止しようとするなどの努力を意味しており、Bescond氏はそのような行動をとっていなかったからである。その上で裁判所は、Bescond氏は当時コモン・ローに存在した以下のカテゴリーのいずれにも該当する逃亡者ではなかったと結論づけた。(1) 彼女はtraditional fugitive(従来の逃亡者)(すなわち、罪を犯した裁判所の管轄を逃れる、もしくは自身の通常の居住地を離れて身を隠す者)ではなかった。なぜならBescond氏は逃亡も隠匿もしていなかったからだ。また、(2)彼女はconstructiveflight fugitive(積極的な逃走を行う逃亡者)(すなわち、米国内で犯罪を犯したが、起訴を知った時には国外にいて、訴追を避けるために米国への帰国を拒否した者)でもなかった。なぜなら彼女は米国内で被疑犯罪を犯しておらず 、訴追を避けるために米国から離れていたわけではないからだ。むしろ、「彼女は母国で認められているように、ただ自宅に留まっているだけ」なのである。
第2巡回裁判所は、Bescond氏が逃亡者ではないと判断した後、さらに踏み込んで、仮に彼女が逃亡者であったとしても、「彼女の海外での外国籍者としての法で認められた居住性、起訴された犯罪の性質とそれによって引き起こされたとされる被害からの彼女の遠隔性、彼女の仕事の業種、そして刑法の域外適用に対する彼女の誠実な異議申し立てを考慮すると、連邦地方裁判所は権利剥奪法理を適用するにあたりその裁量を濫用した」と判断した。裁判所は 連邦地方裁判所に破棄差し戻しをし、Bescond氏の訴えの棄却の申し立ての是非を検討させた。
重要なポイント
今回の第二巡回裁判所の判決の影響は、判決の適用される範囲に関する多くの疑問が残っているために完全に把握することはできない。例えば、裁判所の推論は個人の被告に限定されるのか、それとも外国の企業や組織にも適用されうるのか、また、異なる事実上の状況(例えば、米国に財産を所有する外国籍の被告や、より重大な犯罪や暴力的な犯罪で起訴された被告など)において、fugitivity test(逃亡テスト)がどのように適用されるのか、などである。また、他の巡回裁判所が第2巡回裁判所の推論を採用して同様の判決を出すかどうかも不明である。しかし、明らかなことは、Bescond判決が、海外での行為に対して米国での起訴に直面している外国人にとっての勝利であり、逃亡者権利剥奪法理の範囲を制限し、米国刑法の域外適用に対するより積極的な異議申し立てへの道を開くものであるということである。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
chietogawa@quinnemanuel.com