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米連邦巡回控訴裁、Walker Process 請求は特許法上発生しないと判断 (22/01/07)
「Walker Process 」請求の特許法と反トラスト法を含むハイブリッドな性質のため、裁判所は管轄権上、Walker Process請求がいつ特許法の下で発生するかに関して意見が分かれている。米国では特許法に「基づいて」提起される全ての訴訟は連邦地方裁でのみ審理され(28 U.S.C. § 1338(a))、連邦巡回控訴裁にのみ上訴される。 (28 U.S.C. § 1295(a)(1)). これは、全国的に統一された特許法の体系を提供することを目的としたものである。しかし、特許に関わるすべての訴訟が特許法の下で「発生」するわけではない。いわゆる「Walker Process」請求は、最高裁が不正に取得した特許の行使はシャーマン法に基づく反トラスト法請求の根拠となり得るとしたWalker Process Equipment, Inc. v. Food Machinery & Chemical Corp., 382 U.S. 172 (1965) 訴訟の名をとったものである。Walker Process請求には2つの柱がある。 (1) 反トラスト法違反の被告が、故意に特許庁を欺いて取得した特許を行使しており、(2) 反トラスト法違反の原告は、シャーマン法に基づく反トラスト法違反を立証するために必要な要素をすべて満たす必要がある。したがって、Walker Processの請求が管轄権上、特許法の下で発生するかどうかについての判断は一筋縄ではいかないかもしれない。
最近の事例であるChandler v. Phoenix Services LLC, No.2020-1848 訴訟 (Fed. Cir. June 10, 2021)では、原告は、別の訴訟で不公正行為により行使不能とされた特許を被告が行使したことについて提訴している。連邦巡回控訴裁は、Walker Process請求は特許法に基づいて生じたものではないと判断し、本件を第5巡回控訴裁に移送した。先例となる意見(precedential opinion)の中でパネルは、特許問題に対する裁判所の専属的管轄は、(1) 「連邦特許法が訴因となる」、または (2) 「救済に対する原告の権利が、連邦特許法の実質的問題の解決に必ず依存する」 場合にのみ及ぶことを改めて指摘した。この訴訟では、問題となった特許が別の訴訟で既に行使不能とされた後にシャーマン法の下で発生したものであったため、裁判所はWalker Process請求に対する管轄権を欠いていると判断したのである。
関連する背景事実
Chandler訴訟の反トラスト法上の請求は、被告Phoenix Serviceがその子会社Heat On-The-Fly, LLCに発行した特許(993号特許)を行使したことに起因している。993号特許は、水圧破砕法(「フラッキング」とも呼ばれる)で使用する水を加熱する特定の方法と装置について特許を主張しているものである。Heat On-The-Fly は、特許出願時に、特許が無効となるような多数の先行技術の販売および公然使用を開示しなかった。993号特許が発行された後、Heat On-The-Flyは、Chandler訴訟の原告を含む競合他社に対して積極的にこの特許を行使した。競合他社の1社は、Heat On The-Fly に対して別の訴訟を起こし、993号 特許は不公正行為により行使不能であるとの宣言的判決を獲得した。連邦巡回控訴裁はその判決を支持した。
Chandler訴訟の原告は、被告が不公正行為認定に対する上訴中も993号特許を行使し続けたと主張し反トラスト法の請求を行った。連邦地裁は、これらの事実が反競争的行為にあたるとし、Walker Process請求の続行を許可した。控訴審では、Walker Process請求が、特許法の下で発生する問題に対する連邦巡回控訴裁の専属的管轄に含まれるかどうかが閾値問題として扱われた。
Xitronix v. KLA-Tencor
連邦巡回控訴裁がWalker Process請求の管轄権問題を提起されたのは今回が初めてではない。Xitronix Corp. v. KLA-Tencor Corp., 882 F.3d 1075訴訟 (Fed. Cir. 2018) (Xitronix) では、原告は、特許権者による存続特許の行使に基づき、単独でWalker Process独占の請求を主張した。連邦巡回控訴裁は、本件は特許法の実質的な問題を提示していないため、管轄権を有していないと判断した。特許が不正に取得されたかどうかという根本的な問題は特許法に基づくものであるものの、この訴訟の結果に基づいて特許が無効になったり、復活したりすることはない。また、裁判所は2013年の最高裁判決であるGunn v. Minton, 568 U.S. 251 (2013)判決に依拠して、特許法上の問題を解決するため必要があるのだとしても、特許弁護士過誤訴訟は1338条(連邦地裁に第一審の専属的管轄を付与)の趣旨から特許法に基づいて発生するものではないとの判断を示した。Gunn判決と同様に同裁判所は、特許庁に対する不実表示に関する問題を州裁判所が「case-within-a-case」で解決することを認めたとしても、その結果は特定の当事者と特許に限定されるため、連邦特許法の統一的な体系を乱すことにはならないと論断した。この訴訟は、連邦巡回控訴裁が管轄権を欠いていると判断したため第5巡回控訴裁に移送された。
不思議なことに、第5巡回控訴裁は連邦巡回控訴裁の結論はありえないとして、本件を覆し、連邦巡回控訴裁に戻した。第5巡回控訴裁は、Gunn判決が1295条ではなく1338条を解釈したものであるため、Gunn判決は適用できないとの判決を下したのである。また、連邦巡回控訴裁の次の2つの判例を引用し、単独のWalker Process請求は後者に控訴されるべきであるとした。Nobelpharma AB v. Implant Innovations, Inc., 141 F.3d 1059, 1068訴訟 (Fed. Cir. 1998) で裁判所は、地域法ではなく、連邦巡回区法がWalker Process請求に適用されると判断、 In re Ciprofloxacin Hydrochloride Antitrust Litig., 544 F.3d. 1323, 1330 n.8 訴訟 (Fed. Cir. 2008) で裁判所は、移送中のWalker Process請求を裁き、脚注で 「PTOにおける不正の判断には、必然的に特許法の実質的な問題が含まれる」と記述した。
手続き上、移送された訴訟を受理した裁判所は、その管轄が妥当である限りその訴訟を受理する必要がある。連邦巡回控訴裁は妥当性の分析(plausibility analysis)のもと、先例にとらわれない意見の中で管轄権を認め、最終的にXitronix訴訟の本案審理を行った。
連邦巡回控訴裁によるChandler判決
Chandler訴訟のパネルは、下記の複数の理由から控訴での管轄を欠いていると結論づけた。
第一に、Xitronix訴訟の場合とは異なり、Chandler訴訟は、根底にある特許が既に行使不能とされていたため、管轄の「妥当な」根拠さえ示していないということだ。しかし裁判所は、根底にある特許の状況は重要な要素ではあるものの、それが決定要因となるべきではないと指摘した。同裁判所の主な懸念は、特許がまだ有効で法的強制力があるかどうかだけで控訴管轄が決まると、法的請求が同じであってのだとしても、存続特許に関わる請求は連邦巡回控訴裁へ、失効特許に関わる請求は地域巡回控訴裁へ、という恣意的な分裂を生じさせることになってしまうということであった。
第二に、原告のWalker Process請求を第5巡回区が管轄することは、連邦特許法の統一された体系を損なうものではないということである。Xitronix判決が説明したように、他の巡回控訴裁が誤った特許法上の判断を下す恐れがあるというだけでは、連邦巡回控訴裁の専属的管轄を発動するのに十分ではない。本件のように、結果が「当事者と関係する特許に限定される」場合には、特許法制度全体にそれが波及することはないだろう。さらに、993号 特許がすでに別の訴訟で行使不能とされていたために、本件の控訴裁判所には、実質的な特許法の問題を掘り下げる必要性がまったくないに等しかったともいえるのである。
第三に、今回の裁判所の判決はその先例と整合的なものであることだ。Nobelpharma判決では、Walker Process請求には地域巡回控訴裁ではなく連邦巡回控訴裁の法律が適用されるとの判断がされたものの、管轄の範囲と法律の選択は別個の問題である。Cipro判決やXitronix判決のように、一部のWalker Process請求に対して最終的に裁判所が管轄権を行使したケースに関しては、管轄の問題はde novo基準(de novo standard)ではなく、より低い妥当性の基準(plausibility standard )で検討された。また裁判所は、Xitronix判決における第5巡回控訴裁の1295条と1338条の解釈に同意せず、この2つの規定は第5巡回控訴裁が示唆したように互いに切り離されてはいないとの見解を示した。
結論
第5巡回控訴裁は、Chandler判決に対してまだ反応を示していない。 しかし、第5巡回控訴裁と連邦巡回控訴裁の見解が異なることから、Walker Process請求に対する管轄について は、狭い範囲でのケースに応じた審理になる可能性がある。Q
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
chietogawa@quinnemanuel.com