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ライフサイエンス訴訟の最新情報 (22/01/07)
中国、パテントリンケージ制度を設立
2021年7月4日に中国国家薬品監督管理局(以下「NMPA」)と中国国家知識産権局(以下「CNIPA」)は共同で「医薬品特許紛争の早期解決メカニズム実施弁法(試行)」(以下「実施弁法」)を発効し、即時施行された。7月5日には、中国最高人民法院が新法から派生することが予想される特許訴訟に関する司法解釈(以下「司法解釈」)を発表し、CNIPAがその行政審判に関する実施策を発表している。これらの規則の公布は、中国のパテントリンケージ制度の正式な確立を意味する。
中国のパテントリンケージ規則は、米国の薬価競争及び特許期間回復法(通称Hatch-Waxman法)のパテントリンケージの枠組みに一般に沿ったもので、医薬品開発者の利益と一般市民のより安価なジェネリック医薬品へのアクセスとのバランスを図りながら、革新的医薬品の研究開発を促進することを目的としている。以下、これらのパテントリンケージ規則の主要点を紹介する。
先発医薬品の特許登録
Hatch-Waxman法に基づき、米国食品医薬品局(以下「FDA」)は、一般に「オレンジブック」と呼ばれる出版物を維持し、承認された医薬品に関連する特許および独占の情報などを明らかにしている。実施弁法に基づき、中国のNMPAはオレンジブックと同様の情報を含む「市販医薬品特許情報登録プラットフォーム」を構築し維持している。参照:実施弁法第2条. 米国と中国の両制度では、イノベーター(米国では新薬承認申請(以下「NDA」)者、中国では市販承認取得者(以下「MAH」))は、市販承認取得後30日以内に承認済医薬品に対応する特許に関する情報などを登録しなければならない。参照:実施弁法4条、 21 CFR 314.53(c)(2 (ii). 中国の新法に基づき登録可能な特許には、主に医薬品有効成分(以下「API」)、APIを含む医薬品または製剤、および承認済医薬品の承認された医療用途をカバーする特許が含まれる。参照:実施弁法5条. 米国および中国の両制度では、NDAホルダー/MAHは情報の正確性に責任を持ち、FDA/NMPAは通常ハンズオフ・アプローチをとる。参照:実施弁法5条、 21 CFR § 314.53(f ).
後発医薬品特許声明
Hatch-Waxman法では、後発医薬品申請者は先発医薬品に関連するオレンジブックに記載された特許について、簡略新薬承認申請(以下「ANDA」)で4つの証明書のうち1つを作成しなければならない。参照:21 CFR § 314.94(a)(12). 中国の制度も同様である。中国の後発医薬品申請者は、記載された各特許について以下の4つの声明(一般的に米国の証明書と同じもの)のうち1つを選択しなければならない。第一類声明:当該医薬品に関する特許が登録されていない、第二類声明:当該特許が満了または無効となった、あるいは申請者がライセンスを取得した、第三類声明:当該特許の満了前に後発医薬品を市場に投入しないことを申請者が承諾する、第四類声明:当該特許は無効とされるべき、そうでなければ侵害されない、である。参照:実施弁法6条.中国における後発医薬品申請者は、後発医薬品申請がNMPAによってリストに記載された後10営業日以内に、特許声明及びそれを裏付ける資料(非侵害を宣言する場合はクレームチャートを含む)をMAHに通知しなければならない。Id. 同様に、米国では後発医薬品申請者は、FDAがANDAの申請を受け付けてから20日以内にNDA保有者に特許証明書を通知しなければならず、特許証明書を裏付ける無効または非侵害の立場の根拠に関する詳細な陳述書を提供しなければならない。参照:21 CFR § 314.95(b).
司法・行政上のリンケージ、承認の停止
Hatch-Waxman法では、後発医薬品申請者が第四類声明(特許は無効とされるべき、そうでなければ侵害されない)を選択し、それをNDA保有者に通知した場合、特許保有者が後発医薬品申請者からのANDA通知受領後45日以内に侵害訴訟を提起すれば、FDAは後発医薬品申請者のNDA保有者への通知日から30ヶ月間ANDAの承認を禁止される。参照:21 CFR § 314.107(b)(3)(i).
同様に、中国は特許権者が北京知的財産裁判所に提訴するための45日間の期間を定めているが、この期間は後発品申請書が公開された日から開始される。参照:実施弁法7条、司法解釈の1条. 後発品申請の詳細がFDAによって機密として管理されている米国とは異なり、NMPAの医薬品評価センターは中国の後発品申請について、申請者名、医薬品の化学名、申請のリストへの記載日など一定の詳細を公表している。参照:実施弁法11条.
北京知的財産裁判所での特許紛争は、通常第一審判決を得るまでに1年以上かかるが、米国連邦地方裁判所での特許訴訟は本案判決までに数年かかることもある。中国では北京知的財産裁判所のほかに、パテントリンケージ紛争の代替的な場としてCNIPAによる行政裁定が規定されている。CNIPAにおける行政手続(特許無効審判を含む)は通常6ヶ月以内に終了するが、これは18ヶ月かかる米国の当事者系レビュー(以下、「IPR」)制度に比べると格段に早い。しかし、注目すべきはCNIPAによる行政裁定は北京知的財産裁判所に控訴されるのに対し、米国では地方裁判所とIPRの判決はいずれも米国連邦巡回区控訴裁判所へ直接控訴されることである。
さらに、中国では承認の停止期間が著しく短い。そこでは特許権者は、裁判所またはCNIPAによって訴訟が訴訟事件一覧表へ記載されてから15営業日以内に、NMPAおよび後発品申請者に通知をしなければならない。参照:実施弁法7条. その後、NMPAは、後発品申請が承認されるまでの9ヶ月の待機期間を一度だけ設定する。参照:実施弁法8条. こうした理由で、中国の待機期間の長さは、30ヶ月の米国の待機期間よりもはるかに短いのである。
最後に中国と米国の両国では、45日間の異議申立期間内に特許権者から訴えられなければ、後発品申請者は宣言的判決を求める訴訟を起こすか、行政裁定を求めることができる。いずれの法域においても、後発医薬品申請に関する技術的/規制的審査は、承認そのものにのみ適用される停止/待機期間中に進められる。
医薬品の審査と承認
中国の新制度では、訴訟と9ヶ月の待機期間の対象となる後発品申請は、以下の状況下で最終行政承認のための手続きが行われる。(1) 特許が無効とされた、(2) 特許が侵害されていない、 (3) 当事者間で特許紛争を解決した、もしくは (4) 9ヶ月の待機期間満了時に有効な判決または和解がない、などである。参照:実施弁法9条. 後発医薬品が特許を侵害している場合、特許の有効期限が切れる前に後発医薬品の申請を行っても最終的な行政承認の手続きは行われない。Id. 米国では独占期間満了前に、地方裁判所が特許を無効、執行不能、または侵害しないと判断した場合、あるいは裁判所が侵害を認めずに棄却命令を下した場合(例えば、当事者が特許紛争を解決した場合など)には、判決または命令の日以降にANDAが承認される可能性がある。参照:21 CFR §314.107(b)(3)(viii)
後発品申請者の独占期間
Hatch-Waxmanの下では、イノベーターのオレンジブック特許にチャレンジする最初のANDA申請者は、通常180日間(この間、他の後発医薬品を販売することはできない)後発医薬品の独占販売権を得ることができる。参照例:Guidance for Industry, 180-Day Exclusivity: Questions and Answers, FDA, 2017.(業界に向けたガイダンス、180日の独占期間についての質問と回答)
中国も同様のルールを設けているが、後発品申請者に対してはハードルをより高く設定し、独占期間も長くしている。中国では後発品申請者は以下を満たす必要がある。(1)特許の有効性へのチャレンジに最初に成功した者であること、そして (2)最初に販売を承認された者であることだ。後発医薬品申請者は、異議申立に成功するには第四類声明を提出し、オレンジブックと同様の情報を含むCNIPAの市販医薬品特許情報登録プラットフォームに登録されている先発医薬品の特許すべてを無効化することに成功する必要がある。参照:実施弁法11条. 非侵害で勝訴したり、登録された特許の一部だけが無効であることを証明したりすることは、成功したチャレンジとしてみなされるには不十分である。チャレンジに成功した中国の申請者には、後発医薬品が承認された日から12ヶ月の独占期間(米国の独占期間の2倍)が与えられる。Id.
結論
中国の規制当局は、同国の新しい医薬品パテントリンケージ制度を具体化し始めたばかりである。 中国は米国のHatch Waxman制度から多くのヒントを得ているが、その違いは重要であるかもしれない。北京知的財産裁判所とCNIPAがこの制度の下で発生する紛争を裁く中でさらなる詳細が明らかになってくるであろう。それまでの間、製薬会社は新制度を利用し、自社の権利をよりよく保護し、中国でのビジネスおよび法的リスクを最小化するために戦略を調整するべきである。 Q
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
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