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商標および著作権訴訟の最新情報
サブライセンス契約の解除に関する法的考察 (22/04/26)
米国では、商標ライセンスは任意に解除できるという原則が確立している。Menendez v. Holt, 128 U.S. 514, 524 (1888). しかし、有効なライセンサーがそのような商標を使用するために第三者とサブライセンス契約を締結した場合の解除については、法律ではどうなっているのだろうか。このような「サブライセンス」解除訴訟において、訴訟当事者が依拠できる首尾一貫した法体系は存在しない。なぜならこの特定の問題に関して判例法はまばらで、さまざまな法域に分散しているからである。しかし、商標サブライセンスの解除をめぐる法的考察を理解することは、商標ライセンサー、ライセンシー、およびサブライセンシーにとって大きな意味を持つ可能性がある。この記事では、サブライセンス契約を評価または検討する際に、そのような当事者が考慮すべき事項、およびその解除の可能性に焦点を当てる。
商標ライセンサーが考慮すべき事項
一般的に、商標所有者が特定の使用を許可する意思がないことをサブライセンシーが知っているか、知る理由がある場合、サブライセンスの使用許諾は解除される。参照:Restatement (Third) of Unfair Competition § 29(d) (1995). この使用許可をしない旨は、商標の継続的な同意と矛盾する言葉や行為で示されることがある。Id. 例えば、裁判所が認可したライセンスを解除する 2 つの方法は以下のとおりである。(1) サブライセンシーに中止勧告の書簡を送る(Eagle Hosp. Physicians, LLC v. SRG Consulting, Inc. Inc. v. Ice Clear US, Inc., 2021 WL 3630091, at *13 (N.D. Ill. Aug. 17, 2021))、もしくは (2) サブライセンシーに対してサブライセンスの侵害訴訟を開始する(Chicago Mercantile Exch. Inc. v. Ice Clear US, Inc., 2021 WL 3630091, at *13 (N.D. Ill. Aug. 17, 2021))だ。侵害訴訟を開始することほど、同意の欠如を示すものはない。
さらに、サブライセンスがマスターライセンス契約の解除後も自動的に存続するという法的ルールはない。In re Weinstein Co. Holdings, LLC, 2020 WL 6816961, at *3 (Bankr. D. Del. Aug. 17, 2020). 一般に、主契約が解除された場合、ライセンサーはもはやサブライセンスを行う権利を有さない(マスターライセンス契約においてサブライセンスが存続することが明示的に規定されている場合を除く)。Nemo dat quod non habet(「誰も自身が保有しないものは与えない」)。したがって、商標ライセンサーが既存のライセンスと関連するサブライセンスの両方を解除したい場合、それ以降の使用を許可しないことを明示的に示す必要がある。
これらの一般原則にかかわらず、ライセンサーが商標ライセンスとサブライセンスの両方、もしくはその一方を解除しようとしたとしても、サブライセンスが付与されたマスターライセンス契約がそれを許さない可能性がある。なぜならサブライセンシーの権利が契約解除後も存続するかどうかが、そのような契約の解釈に依存する可能性があるからだ。Fraunhofer- Gesellschaft zur Forderung der Angewandten Forschung E.V. v. Sirius XM Radio Inc., 940 F.3d 1372, 1380- 82, (Fed. Cir. 2019). この問題を扱った裁判所は、サブライセンスの存続に関するマスターライセンス契約の曖昧さを解決するために、例えば次のような外在的証拠を考慮した。(1) マスターライセンス契約の解除時にサブライセンシーがサブライセンス契約に基づく義務をすべて履行したか、(2) 商標権者がサブライセンス契約の条件およびサブライセンス契約に加えられた修正を知り、それに同意したか、(3) 当事者がサブライセンシーのライセンスの有効性に対する長期的な信用について話し合ったか。 (4) 侵害疑惑における商標所有者の役割と、サブライセンシーによる標章の継続的な使用にはライセンスが必要であるとする当事者の推測、(5) マスターライセンス契約の終了がサブライセンスに及ぼす影響を明らかにする可能性のある、関連契約締結前後の当事者間のその他の議論、および (6) 商慣行と習慣。Id. at 1382. したがって、商標のライセンサーは、将来の権利に影響を与える可能性のあるマスターライセンス契約を準備または締結する際に、文言と上記の要因の重要性を認識する必要がある。
商標のサブライセンシーが考慮すべき事項
同様に、商標をサブライセンスする当事者は、当該商標に適用されるマスターライセンス契約に関連する契約条件を慎重に検討することが重要である。実際、サブライセンシーがサブライセンス解除の請求に勝訴した例はほとんど報告されていないが、サブライセンシーがマスターライセンサに対して勝訴したケースは、次のような理由によるものであった。(1) マスターライセンス契約に、サブライセンシーに対して特定の履行を求める明示的な条項があった (Tarrant Apparel Grp. v. Camuto Consulting Grp., Inc., 838 N.Y.S.2 d 498, 499 (App. Div. 1st Dep't 2007)) 、または (2) ライセンサーが、サブライセンシーがサブライセンスを結ぶために依拠した情報を欺瞞的に伝えた (Ostano Commerzanstalt v. Telewide Sys., Inc., 794 F.2d 763, 765 66 (2d Cir. 1986)) 場合だ。
解除が行われる場合、サブライセンシーは、ライセンサーが標章を所有していなかったこと、もしくは標章を放棄したことを証明するか、衡平法禁反言(equitable estoppel)につながる懈怠(laches)を証明できれば、解除に対する抗弁に何らかの手段をもち、成功を収めることができるかもしれない。参照:Eagle Hosp. Physicians, 2005 WL 8160544 at *6. サブライセンシーに関するこのような分析で裁判所が考慮した要因には、ライセンサーが(1) その標章を国内のいずれでも、もしくは数年間使用していない、または (2) 商標不正使用の疑いを知っていて、過失によりその権利を主張するのが遅れたため、サブライセンシーに不利益を与えたか、がある。Id. (Conagra, Inc. v. Singleton, 743 F.2d 1508, 1516-17 (11th Cir. 1984) を引用)、Restatement (Third) of Unfair Competition § 29 も参照。これらの要因は、商標のサブライセンスを検討している当事者によって考慮されるべきである。
上記の適用法の不確実性と、サブライセンシーの解除請求を検討する際に裁判所が多要素テストをしばしば適用している事実を考慮すると、ライセンサー、ライセンシー、サブライセンシー、およびその弁護士は、ライセンス契約の交渉や訴訟の準備をする際にこの潜在的な問題を認識しておく必要がある。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
chietogawa@quinnemanuel.com