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COVID-19の保険適用に関する争議、控訴審に持ち込まれる (22/11/25)
2020年初めにCOVID-19の流行とそれに伴う政府の規制によって企業が損害を受け始めて以来、商業用損害保険契約に基づくこれらの損害に対する補償の範囲について、全米で2,300件を超える訴訟が提起されている。今日まで、「物理的な損失または損害」の立証を必要とする事業中断の補償に関して、特にパンデミックの初期のケースでは、ウイルスによる損失の補償を明示的に除外した「ウイルス除外」条項に関するものが多く、保険会社はほとんどの最終的判断を求める申し立てに勝利している。そのようなウイルス除外条項が保険証券にない場合、裁判所が答えるべき問題は、保険契約者の主張するCOVID関連の損失が、保険証券の「物理的損失」または「物理的損害」の要件を満たすかどうかである。ほとんどの裁判所では、これらの条件の充足にはパンデミックやそれと闘うための政府の命令による財産の使用不能以上のものが必要であるという保険会社の主張が受け入れられている。
時が経つにつれ、裁判所、特に州裁判所は、保険契約者のそのような文言のより広い解釈を受け入れるようになり、それに応じて保険会社の棄却の申し立てを却下し、時には保険契約者に有利な略式判決を下してきた。例えば、2021年5月にペンシルバニア州の裁判所は、COVID-19の拡散と州政府の封鎖命令により居酒屋を一時的に閉鎖した保険契約者に略式判決を下し、居酒屋の閉鎖は「居酒屋への直接的物理的損失または損害」という保険の要件を満たしていると判断した。MacMiles, LLC v. Erie Ins. Exchange, No. GD-20-7753, 2021 WL 3079941, at *6 (Pa. Com. Pl. May 25, 2021). 裁判所は、財産そのものへの損害が必要であれば、「損失」という言葉は「損害」と重複するとの理由を付し、「COVID-19とソーシャルディスタンシング措置」は、その居酒屋の「使用を物理的に制限させた」ので、「直接物理的損失」をもたらしたと結論づけるのは妥当であるとした。Id. at *6
現在では、COVID-19に関連する同様の損害に同様の契約文言がどのように適用されるかについて全米で何百もの控訴が係属中であり、注目が控訴審に移っている。連邦控訴裁判所は常に保険会社に味方し、COVID-19や関連する政府命令による財産の使用不能は、直接的な物理的損失や損害の提示を必要とする補償を引き起こすものではないとしている。参照例:Henderson Rd. Rest. Sys., Inc. v. Zurich Am. Ins. Co., No. 21-4148, 2022 WL 2118912, at *3 (6th Cir. June 13, 2022) (「圧倒的な判例法の流れ」と称した上で、第2、3、4、5、6、7、8、9、10、11連邦巡回区控訴裁判所の判例を引用)
しかし、州の控訴裁判所での判断はそれほど一面的ではない。その多くは連邦裁判所の判断に同意しているが、保険契約者に勝利をもたらし、保険契約者とその弁護団が全国的な流れを変えることができると期待しているものもある。2022年6月、ルイジアナ州の中間上訴裁判所は、「コロナウィルスの継続的な遍在により」レストランのキャパシティが制限されたことによる「事業の減速」が、「財産の直接的な物理的損失または損害」による事業の「停止」をカバーする文言のある「オールリスク」商業保険の適用対象となると判示した。Cajun Conti LLC v. Certain Underwriters at Lloyd’s, London, 2021-0343, 9-15 (La.#App. 4 Cir. June,18,22). 詳細な意見の中で複数派は、この保険契約では補償が「財産の使用の完全な損失」を必要とするか、単に「財産の完全な使用の損失」を必要とするかについて曖昧であるとし、保険契約における曖昧さは補償に有利に解決されるべきであるという確立した規則を適用した。また、2022年7月、カリフォルニア州の中間上訴裁判所は、ホテルとレストランのオーナーが起こした訴訟について、「COVID-19によって損害を受けた財産の処分をする必要性に駆られた」と明確に主張したため、訴答段階を経なければならないと判示した。この判決について裁判所は、「パンデミックによる事業損失が事業主の第一人者向け損害保険でカバーされるかどうかを検討するほとんどすべての(ただすべてではない)判決と矛盾する」ものであると認めている。Marina Pac. Hotel & Suites, LLC v. Fireman’s Fund Ins. Co., No. B316501, 2022 WL 2711886 (Cal. Ct. App. July 13, 2022).
これらの判決は、保険契約者に全米の州控訴裁判所での機運上昇への期待を与えるかもしれない。というのも、ほとんどの州では、COVID-19の事業中断補償に関する控訴裁判所の判決はまだなく、各州の最も高い控訴裁判所からそのような判決が出た州はごくわずかであるからだ。保険法は州法であるため、州裁判所で保険契約者寄りの判決が下されると、その州法を解釈する連邦裁判所も相違の中でそれに従うことになる。さらに、保険契約者に有利な州の控訴審判決は、少なくともそれぞれの州内では、拘束力のある判例や説得力のある権威としてだけでなく、外部証拠としても将来の判断に影響を与える可能性がある。「ほとんどの裁判所は、司法判断が分かれることは少なくとも曖昧さの証拠であるとしている」Williston on Contracts § 49:18 (4th ed.)ため、一般的な保険契約文言に対する保険契約者に有利な司法解釈が大量に存在することは、その文言が少なくとも曖昧である(すなわち、少なくとも補償の対象となるような解釈をすることが合理的に可能)ことの証拠とみなされ、通常は補償が与えられることになる。参照:id. § 49:15.
今日まで、裁判官は概して、そのような臨界量となるほどの数の保険契約者寄りの判決を下してはいない。例えば、2021年4月にフロリダ州南部地区の連邦裁判所は、相反する司法解釈が曖昧さの「重要な指標」となることを認めた上で、「フロリダ州の津波のように大量な判例」が保険会社の解釈を支持している中で、保険契約者が「直接物理的損失または損害」の解釈を裏付ける「指ぬきほどの」判例を引用しただけでは曖昧さを立証できないと判示している。Graspa Consulting, Inc. v. United Nat'l Ins. Co., 2021 WL 1540907, *5-8 (S.D. Fla. Apr. 16, 2021). 現在の判例上では、この「指ぬき」対「津波」のアンバランスが残っているが、今後の州控訴裁判所で保険契約者がこれを変える可能性は考えられなくはない。
何十億ドルという金額がかかっているため、COVID関連訴訟に参加している保険会社や保険契約者は、控訴審の判例の展開に細心の注意を払う必要がある。今後数ヶ月の間に、これらの判決、特に州控訴裁判所の判決によって、これまで広く受け入れられていなかった保険契約者の保険契約の解釈が支持されるようになるかもしれない。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
chietogawa@quinnemanuel.com