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注目「Snap removal」 (22/12/27)
当事者の一方がそのフォーラムの被告である場合に、訴訟を移送させる手段がないと思っている方は、考え直してほしい。「snap removal 」と呼ばれるプロセスは、下級裁判所では適切な方法としての採用にためらいがあるようではあるものの、これまでにその検討をした全ての連邦控訴裁判所からは承認を得ているプロセスである。
州籍相違に基づく裁判権が存在する限り、合衆国法律集第28編第1441条(b)は、「適切に被告として参加し、送達された利害関係者のいずれかが、当該訴訟が提起された州の市民である」場合を除き、被告が連邦裁判所に事件を移送することを認めている。28 U.S.C. § 1441(a); § 1441(b)(2) (強調追加) 裁判所はこの制限を「フォーラム被告人規則(forum defendant rule)」と呼んでいる。法令の平易な読み方に基づけば、Snap removalを試みる当事者らは、州訴訟に「適切に参加し、送達された」ことをしていない被告は、第1441条(b)(2)の条項そのものにより、「フォーラム被告人規則」の制限の対象外であると主張するであろう。
1441条(b)がフォーラム被告への送達がそれぞれ完了する前に移送を認めるかどうかを正面から取り上げた3つの連邦控訴裁判所(第2、第3、第5巡回区)は、それぞれ、法令の平易な文言に基づき、Snap removalが実際に認められると結論付けている。Gibbons v. Bristol-Myers Squibb Co., 919 F.3d 699 (2d Cir. 2019) (移送に関する法令の平易な文言に基づいて、フォーラム被告によるSnap removalを承認); Encompass Ins. Co. v. Stone Mansion Restaurant Inc., 902 F.3d 147, 153-54 (3d Cir. 2018) (同様); Texas Brine Co., L.L.C. v. American Arbitration Ass'n, Inc., 955 F.3d 482, 486-87 (5th Cir. 2020) ((Gibbons とEncompassの理論的根拠を採用し、1441条(b)の平易な文言がフォーラム被告への送達前にさらに、第6巡回連邦控訴裁判所は、脚注で第1441条(b)(2)項がSnap removalを認めていることを指摘した。McCall v. Scott, 239 F.3d 808, 813 n.2 (6th Cir. 2001) (「完全な州籍の相違がある場合...送達されていない居住者の被告が訴訟に含まれていたとしても、合衆国法律集第 28 編第 1441 条(b)(2)の下で移送は無効とはならない。」) (原文には強調あり) 最後に、第11巡回連邦控訴裁判所はその付随的意見(dicta)にて、「その用語からすると、フォーラム被告人規則は、フォーラムの被告が『適切に参加し、送達された』場合にのみ適用される」と述べている。Goodwin v. Reynolds, 757 F.3d 1216, 1220-21 (11th Cir. 2014).
しかし一部の下級連邦裁判所は、この 「戦術」に敵対的である。例えば、裁判所は法令全体を分析し、「any」という用語は包括的であると考えるべきであり、当事者のフォーラムは、当事者が送達され、適切に参加した後にのみ検討されるものであると判示している。参照: Bowman v. PHH Mortg. Corp., 423 F. Supp 3d 1286. 1289 (N.D. Ala. 2019) (「『Any』は、「ある種のものすべてから無差別に1つ以上」という意味である。」この定義に内在するのは、『その1つ以上が引き出せるような種類の数』である」) Gentile v. Biogen Idc, Inc., 934 F.Supp. 2d 313, 318 (D. Mass. 2013) (「この法令は、少なくとも一方の当事者に送達がなされたことを前提としている。その前提を無視すると、例外規定に基づく裁判所の分析が無意味になり、法令での「Any」の使用も無関係なものとなる」)
第11巡回連邦控訴裁判所を含む他の裁判所は、被告が駆け引きの一環として法令の文言を利用することに懸念を示している。例えば、Goodwin訴訟において、第11巡回連邦控訴裁判所は、被告があからさまな送達に関する「駆け引き」を行った場合、裁判所は、セクション1441(b)に従って移送された訴訟を差し戻す裁量を持つことができると示唆したが、断定はしなかった。Goodwin, 757 F.3d at 1221. この訴訟にて原告は、州裁判所で訴訟を開始した後、被告に訴状の写しを提出した。その数日後、フォーラムの被告に送達がなされる前に、被告は連邦裁判所に訴訟を移送した。Id. 同裁判所は、被告が原告から送られた写しを利用したことに嫌悪感を示した。同様に、Timbercreek訴訟にて、裁判所は被告が駆け引きを行ったと認定した。原告は、被告に9回送達を試みたが、被告の回避戦術により実施できなかった。とりわけ、被告はゲーテッド・コミュニティのゲートを開けるのを拒否し、実際には被告がいるのにも関わらず、職場の秘書に自身が不在であると送達実施人に伝えさせた。Timbercreek Asset Mgmt., Inc. v. De Guardiola, No. 19-cv-80062, 2019 WL 947279, at *4 (S.D. Fla. Feb. 27, 2019); 次も参照:Curtis v. Bruner, No. 9:19-CV-80739, 2019 WL 7837885, at *2 (S.D. Fla. Aug. 2, 2019) (原告が被告に送達しようとしたところ、送達先の人物が送達を受け入れるためにドアを開けることを拒否したのちに、被告が訴訟を移送した場合に、差し戻しの申し立てを認める)、Delaughder v. Colonial Pipeline Co., 360 F. Supp. 3d 1372, 1380 (N.D. Ga. 2018) (移送を行う被告が登録代理人を変更し、送達を回避するために原告にその変更を知らせなかった場合に、差し戻しの申し立てを認める)。
また、原告は、不合理な結果を避けるための法令の解釈を論じた一連の判例に基づき、Snap removalを攻撃している。不合理な結果とは、例えば、同じ法令の異なる条項の間に矛盾が生じる場合、あるいは文字通りの解釈をすると全体的な法体系の目的が損なわれるような場合である。Raymond B. Yates v. Hendon, 541 U.S. 1, 17-18 (2004); United States ex rel. Barajas v. United States, 258 F.3d 1004, 1012 (9th Cir. 2001). Snap removalに関して原告は、原告ではなく被告にフォーラムを選択させる移送法の解釈は不合理な結果につながると主張するかもしれない。参照:Hawkins v. Cottrell, Inc., 785 F. Supp. 2d 1361 (N.D. Ga. 2011); DeAngelo-Shuayto v. Organon USA Inc., 2007 WL 4365311, at *4 (D.N.J. Dec. 12, 2007) (「そのように風変わりな結果は立法者の意図ではあり得ない」ためフォーラム被告のSnap removalを否定) 注目すべきは、第2巡回連邦控訴裁判所がGibbons, 919 F.3d at 707訴訟において、「本州の被告は、限られた状況下では、州籍の相違に基づいて州裁判所に提出された訴訟を取り下げることができるが、これは、1441条(b)(2)の本文によって認められており、不合理でも根本的に不公平なことでもない」として、このSnap removalに対する異議を却下している点である。次も参照:North v. Precision Airmotive Corp., 600 F. Supp. 2d 1263 (M.D. Fla. February 26, 2009) (「議会は、被告が送達される前に州裁判所の訴訟事件一覧表を積極的に監視し迅速に訴訟を移送することができるとは予想していなかったかもしれないが・・・そのような結果は、他の点で完全に明確かつ曖昧さのない法令を前にして、「曖昧な」または存在しない立法経緯に依拠することができるほど不合理なものではない。)
合理的な考えの下では、「手続き上の結果(すなわち、Snap Removal)は、法改正の必要性を示していると結論づけることができるだろう。しかし、そのような変更が必要な場合、行動しなければならないのは、司法当局ではなく議会である。」Encompass, 902 F.3d at 154. 注目すべきは、この法令が2011年に議会で改正され、関連する文言が、「すでにいくつかのSnap removalが行われた後であったにも関わらず」基本的にそのまま残されたことである。Texas Brine Co., L.L.C., 955 F.3d at 486-87. 議会は、少なくとも2020年2月にジョージア州選出の民主党議員Henry C. "Hank" Johnson, Jr.が、「Removing Jurisdiction Clarification Act of 2020
(2020年管轄移送明確化法)」と称するH.R.5801を提出してからこの問題に気づいていた。しかし、2年以上経っても、この法案はその審査を割り当てられた下院小委員会を通過していない。
当面の間、Snap removalは法律の中で曖昧なポジションを享受しており、これは精通した被告が、彼らがたとえ訴訟が提起されたフォーラムに居住していたとしても、州裁判所と連邦裁判所のどちらかを選択することができるようにする可能性がある。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
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