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特許法第101条のアップデート、American Axleと Patent Eligibility Restoration Act (特許適格性に関する法案) (23/02/24)
2022年6月30日に最高裁は、特許適格性に関する連邦巡回控訴裁の判決であるAmerican Axle v. Neapcoにてその裁量上訴を否定した。特許界は、2012年と2014年に最高裁が下したAlice/Mayo判決を受け、この判決が101条判例に待望の明確化をもたらすことになるのではとこの訴訟に注目していたが、残念ながら最高裁による否定はその明確化を拒むこととなった。Thom Tillis上院議員が提出した新法案は、同様に新たな指針を提供することを目的としているものの、その中に曖昧な文言が含まれているため、特許適格性訴訟のさらなる増加につながる可能性があると批判されている。
101条の背景: 米国特許法101条は、「新規かつ有用な方法、機械、製造、組成物、またはそれらの新規かつ有用な改良を発明または発見する者は、本号の条件および要件に従って、そのために特許を取得することができる」と規定している。長年にわたり最高裁は、この法令に基づかない主題適格の例外をいくつか見出してきた。例えば、自然法則、自然現象、抽象的アイデアは、特許を受ける資格がない。Diamond v. Chakrabarty, 447 U.S. 303, 309 (1980). しかし、ほとんどすべての発明は自然現象に依拠するもので、ほとんどすべての発明は抽象的な用語で説明することができるものである。その線引きはどこでなされるのであろうか。
最高裁は、Mayo v. Prometheus, 566 U.S. 66 (2012) とAlice Corp. v. CLS Bank Int'l, 573 U.S. 208 (2014) という二つの訴訟でこの区別を明確にしようと試みた。 その結果である、一般にAlice/Mayoテストと呼ばれるテストは、2つのステップで構成される。 まず裁判所は、問題となるクレームが非適格概念(すなわち、抽象的なアイデアや自然法則)を対象としているかどうかを検討する。これは、クレームされた概念を、以前に非適格とされた他の発明と比較することにより行われる。概念が十分に類似している場合、裁判所は各クレーム、または全てのクレーム合わせて、それらがクレームの性質を特許適格な申請に変える「何かそれ以上のもの」を提供しているかどうかを判断する必要がある。
すでに、このテストのあいまいな性質は明らかである。「十分に類似している」や、「何かそれ以上」とは何か。Alice判決後に下級審では、クレームが抽象的または自然な概念に関するものであり「それ以上」のものを提供しないため無効である、というほぼ同一の理由で、多くの主題不適格の判決が下された。 Alice/Mayo テストの「一貫した方法での適用が困難であることが判明した」後、USPTOは、特許侵害者と特許権者の両方により明確性と確実性を提供することを目的とした新しいガイダンスを発表した。参照: 2019 Revised Patent Subject Matter Eligibility Guidance, 84 Fed. Reg. 50 (Jan. 7, 2019). 特にUSPTOは、Alice/Mayo テストの第1ステップを2つの小部分に分け、(1)「抽象的なアイデアとみなされる主題のグループ化を提供」し、(2)「司法上の例外が、その例外の適用に組み入れられている場合、クレームは司法上の例外に『向けられた』ものではないことを明確化」した。
しかし、そのわずか数ヶ月後に連邦巡回控訴裁判所は、American AxleにおけるAlice/Mayoテストの当時の適用を肯定し、USPTOの指針を否定している。また、連邦巡回控訴裁判所は、USPTOのガイダンスが「法的効力を持たず、(その)特許適格性分析における拘束力を持たない」ことを確認している。cxLoyalty, Inc. v. Maritz Holdings Inc., 986 F.3d 1367, 1376 (Fed. Cir. 2021).
American Axle: この訴訟は、2015年に自動車部品メーカーであるAmerican Axleが、競合会社であるNeapcoを特許侵害で訴えたことに端を発する。 問題となった特許クレームは、自動車のプロペラシャフト組み立て部品の振動を低減する方法に関するものであった。連邦地裁は、主張されたクレームは、物体の質量、剛性、物体が振動する周波数の間の関係を記述するよく知られた方程式であるフックの法則の適用を示唆しているだけで、それ以外は「科学界によってすでに行われている、よく理解された、ルーティーン的で、慣習的な活動」を超えるものを加えたものではないとして、この特許は101条に基づき特許不適格と判断した。Am. Axle & Mfg., Inc. v. Neapco Holdings LLC, 309 F. Supp. 3d 218 (D. Del. 2018).
2020年7月、米連邦巡回控訴裁は連邦地裁の判示を支持し、主張されたクレームは 「プロップシャフトライナーを調整し、特定の振動を減衰させるのに、単にフックの法則の適用を必要とする」ものであると判断した。Am. Axle & Mfg, Inc. v. Neapco Holdings LLC, 967 F.3d 1285, 1292 (Fed. Cir. 2020). Moore判事は強く異議を唱え、問題となったクレームは「問題(プロップシャフトの振動)に対する具体的な解決策(プロップシャフト内にライナーを挿入する)」を提供しており、101条の下で特許性があると認めない多数派の主張は、「連邦地裁に混乱をもたらし、101条を大幅に拡大させる可能性がある」と主張した。同上. 1304-05.
大法廷による再審理が拒否された後、4つの別々の反対意見が提出されている。反対意見の主な一人であるNewman判事は、「特許適格性に関する裁判所の裁定は、あらゆる技術分野におけるイノベーションのインセンティブに深刻な影響を与えるほど多様で予測不可能になっている」と指摘した。最高裁への上告の際に、事務総長と様々な著名な助言者(知財弁護士会、連邦議会議員、さらには元連邦巡回区首席判事と元USPTO長官を含む)は、この分野の法律を明確にするために最高裁がこの訴訟を取り上げるべきであると主張した。それにもかかわらず、最高裁は裁量上訴を否定し、特許界に失望をもたらした。
Patent Eligibility Restoration Act: 議会内でも、特許適格性テストへのより正確なルール設定のための努力がなされている。2022年8月2日にThom Tillis上院議員(共和党-ノースカロライナ州)は、Patent Eligibility Restoration Actを提出し、特にAmerican Axleに関する最高裁の審議拒否を法案の動機付けとして挙げている。 法案本文は、101条のオリジナルの文言の多くを残しているが、数式、人間の頭脳内でのみ行われるプロセス、改変されていない天然素材、人間の活動とは無関係に自然界で起こるプロセスなど、特許適格ではない概念を明確に定義しようとするものである。また、「非技術的である経済、金融、ビジネス、社会、文化、芸術的なプロセス」も特許の対象とはならないことを明確にしている。
概してこの法案は、裁判所が特許適格と判断する範囲を拡大することを目的としている。第一に、抽象的なアイデアや自然法則は、「それ自体」として主張された場合のみ、特許として認められないと定めている。この文言は、特許が抽象的なアイデアに対して 「向けられた」ものであることを理由にそれを不適格であるとする裁判所の傾向に対処するためのものであると思われる。Tillis上院議員の法案では、そのような特許は抽象的なアイデアを具体的に主張する場合にのみ不適格とされるが、この表現はより狭まったものだが、曖昧であるという見方もある。 第二に、この法案では特許の適格性は、クレーム単位ではなく、主張された発明を全体として考慮することによって決定されるべきであると定めている。 これは、Alice/Mayoの下では、しばしば不適格とされた適格な主題と不適格な主題を組み合わせたクレームが、依然として適格とされる可能性があることを意味している。 第三に法案は、クレームが新規であるかまたは非自明であるかについては法律の他の部分に準拠するため、適格性分析には含まれるべきではないと規定している。
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101条の下での特許適格性に関して明確でない状態が続いているため、発明者、企業、特許審査官、トライアルの判事が、どのような主題が特許適格であるかを確実に判断することが難しくなっていると感じている人もいる。 これらの疑問は、最高裁が次の特許適格性訴訟を取り上げることにするまでは答えが出ないままかもしれず、多くの人がAmerican Axle を逃してしまった機会であったとみなしている。Patent Eligibility Restoration Actが101条の判例に何らかの明確性を与えるかについてもまだ分からない。 法案の提出は、何年もかかるかもしれない(それでも可決されない)長い修正プロセスの第一歩である。また、仮に法案が成立したとしても、その法案が要求されている明確性を提供するかは、また別の問題なのである。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
chietogawa@quinnemanuel.com