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EU訴訟の最新情報 (23/04/28)
EU、第三者による訴訟資金提供の規制へ。EUは第三者による訴訟資金提供に適用される現行の規制枠組みの改定を検討している。その目的は個人投資家が第三者による訴訟資金提供を通じて利益を得ることができる既存のルールの強化を行うことである。この提案は欧州議会の法務委員会によってなされ、2022年9月13日にいわゆる「訴訟への責任ある私的資金提供に関する欧州委員会への勧告を伴う決議」において、EU議会議員の過半数によって採択された。今後は、EU委員会がこの勧告に含まれる指令案を採択するか否かを決定することになる。
背景。商業的な第三者による訴訟資金提供の概念は、約四半世紀前に生まれた。これは紛争に巻き込まれた当事者の訴訟費用を投資家が負担するビジネスモデルである。 その見返りとして、訴訟で金銭的にプラスとなる結果が出た場合、投資家は授与された金銭の一部を受け取ることができる。従来のBefore-the-Event(BTE)型訴訟費用保険とは対照的に、訴訟における第三者資金提供者は、すでに起こった出来事に関する訴訟、すなわちAfter-the-Event(ATE)型の訴訟費用保険を提供している。訴訟資金提供者は、自分自身は裁判の当事者ではないので、法的な利害ではないものの、経済的な利害を有している。いくらかの金融規制はあるものの、第三者による訴訟資金の提供は、これまでEUの特定の規制枠組の対象にはなっていなかった。
EU議会の懸念と提案。EUの規制がなかったこれまでの状況は、EU議会の法務委員会による提案によって変わるかもしれない。法務委員会は海外での否定的であるとされる経験に言及し、EU加盟国の「法的市場」で活動する訴訟資金提供者の増加を「欧州の司法運営に対する脅威」、そして「請求者へと下される審判が副産物として見られる利益主導の活動」としてみなしている。彼らは、資金提供者はたびたび、授与された金銭の過剰なほどに高い分配を要求していると主張している。そこで、「EUの司法制度の完全性を維持」し、「訴訟資金提供者による金銭的搾取からEU市民を効果的に保護」するために、決議案では特に以下のことを提案している。
• 各国の監督当局が管理する訴訟資金提供者の認定制度を設ける(EU加盟国に登録事務所があることが必要)
• 訴訟資金提供者に対して、特定の訴訟に事前に資金提供するための充分な財源を確保する義務、そして監督当局にはその支払能力を検証できる機会を導入する
• 訴訟資金提供者が後に支払不能となった場合に、善意で第三者による資金提供を受けた訴訟に関与した請求者を保護できるよう、未払い費用をカバーする保険基金を設立する
• 自然人または法人が、監督当局に対して、訴訟資金提供者の指令および適用される国内法の下での義務の遵守に関して懸念や苦情を提起することを可能にする苦情処置の手続きを定める
• 第三者による資金提供契約に関してその許容される内容の具体的な要件を定める
• 訴訟資金提供者に対して、訴訟手続きに関する決定を下す、またはそれに影響を与える権限を付与するような第三者資金提供契約内のあらゆる条項を無効とする
• 資金提供者の利益に上限を設け、請求者が和解金または補償金総額の少なくとも60%を受け取ることを義務付ける、そして
• 第三者資金提供契約の開示義務と利益相反(弁護士やその他利害関係者との関係等における)を厳密に避ける義務を導入する
代表訴訟に関するEU指令。EU議会の決議案で提案された条項は急進的に思われるかもしれないが、これは全く新しいものではない。代表訴訟に関するEU指令には、すでに第三者による訴訟資金の提供を制限する規定が多数含まれている。 同指令によると、加盟国は、第三者の資金による訴訟において利益相反が回避され、消費者の集団的利益が保護されることを保証しなければならない。例えば、裁判所は、第三者から資金提供を受けた請求者にその資金提供について拒否させる、またはその内容の修正をさせ、必要であれば、特定の訴訟を提起する請求者の訴訟当事者適格を撤回させる権限を持たなければならないことになっている。代表訴訟に関する指令は、2020年末に発効した。2022年12月25日までに国内法に移管され、最も重要なことだが、2023年6月25日から適用される必要がある。今のところ、オランダとデンマークだけが指令を導入しているようであるが、これは現時点では指令の国内法への導入に関する基本的な部分(特に、オプトインのタイミング、適格団体の法的地位や時効中断について)について政権政党が合意できず、指令が定めた移行の期限の遵守ができないことも間違いないと思われるドイツとは全く状況が異なることである。
欧州弁護士会評議会(CCBE)の意見。CCBEは、EU議会のイニシアチブを歓迎している。さらに、EU議会は第三者による訴訟資金の提供により当事者間の不均衡が是正される可能性があるものの、訴訟資金提供者による介入は、独立義務のような弁護士の倫理的義務に違反する結果をもたらす可能性があると主張する。この点について、CCBEは「弁護士が、資金提供契約に拘束されることなく、依頼者の最善の利益のために自由に行動できるべきである」と要請している。そのため、CCBEは一部の規制についての強化を、次の「弁護士の業務に影響を与え、依頼者の最善の利益のために行動することを妨げる可能性のある資金提供契約の条項は、禁止されるべきである。」というように求めている。また、法的枠組みについては、「主要な活動として訴訟資金を提供するプロバイダーだけでなく、付随的なサービスとしてそのような活動を行うプロバイダーもその対象とする」ことを明確にすべきであるとしている。最後に、CCBEは、訴訟資金提供者への報酬割合として最大25~30%を十分な割合とみなしている。
規制案を支持する共同声明。その共同声明内において、Airlines for Europe、AmCham EU、BUSINESSEUROPE、DIGITALEUROPE、DOT Europe、EFPIA、Eurochambres、EuroCommerce、欧州銀行連盟、欧州司法フォーラム、InsuranceEurope、MedTech Europe、米国商工会議所法改正機関は、EU議会のイニシアチブへの支持を表明している。これらの団体は、「訴訟を最後まで見届ける義務がなく、不利なコストに対する責任もない」ため、訴訟資金提供者は「低いリスクで高い報酬を得るための日和見的な請求」を追求できると主張している。
リーガルテック協会の声明 。しかし、ドイツのリーガルテック協会は、第三者による訴訟資金提供への予定されている規制に対し懸念を示し、明示的にこれを受け付けなかった。協会は、ドイツやヨーロッパでは、訴訟資金を悪用した事例は知られておらず、消費者の保護が必要となるような法制度の抜け穴も存在していないと主張している。訴訟資金提供者は、しばしば法的紛争における武器の平等を、「特に、損害を受けた当事者が経済的に勝っており、法的紛争にとりわけ時間と費用がかかるような場合」などに真っ先に確保しようとする存在であった。同協会によれば、その最たる例が独占禁止法違反の損害賠償訴訟であり、特にディーゼル訴訟であるとのことである。協会は、ドイツ連邦司法裁判所(「Bundesgerichtshof」)の最近の判例において、訴訟資金提供者と請求者の間の「利益の収束(convergence of interests)」について意見を述べている。その陳述によると、予定されている規制は、国内レベルでの動向を無視しており、不適当で、不均衡、世俗的なもののであるとされている。
ドイツ連邦弁護士会の意見。リーガルテック協会とは逆に、ドイツ連邦弁護士会(「Bundesrechtsanwaltskammer」)は草案を歓迎し、提案された規制の強化を求めている。現行の決議案では、裁判手続きや行政当局の手続きにおける第三者による訴訟資金提供のみが対象とされているため、ドイツ連邦弁護士会は法廷外の分野にもその対象を拡大することを提案している。加えて弁護士会は、一部のリーガルテック企業や保険会社が行っているような、付随的なサービスとしてのみの訴訟資金提供を実施する企業に関してもその対象として含めることを提案している。さらに、訴訟資金提供者は、紛争当事者と直接契約を締結することのみを許可されるべきであるとしている。これは、弁護士やその他の仲介者との契約は除外されるものである。最後に、訴訟資金提供者は和解交渉に影響を与えることを許されるべきではなく、和解交渉によって得られた産物のうち、最大30%のシェアを受け取るべきであるとしている。
今後の見通し。 EU委員会は立法案を提示することを強制されてはいないものの、EU議会の決議に対しての反応は示さなければならない。このテーマは議題の中でも優先順位の高いものであるため、さらなる進展が期待される。決議案や本紙で論じた上述のコメントなどから、今後の進み方に関し、その最善の方法について相反する見解があることは明らかである。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
chietogawa@quinnemanuel.com