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デジタル資産に関する規制強化に向けた最近の立法・行政の取組みについて (23/06/02)
最近のデジタル資産業界の倒産を契機に、立法者や政府機関はデジタル資産に関する連邦法及び規制の枠組みを構築することに改めて取り組んでいる。 この業界は現在、法的な不確実性と証券取引員会(SEC)による取締りの強化の両方に直面しており、同委員長のGary Genslerは、ほとんどのデジタル資産が商品ではなく証券に該当すると主張している。 米国議会では、消費者保護を強化しつつ、デジタル資産に関する商品先物取引委員会(CFTC)とSECの管轄を明確にしようとする2つの法案が検討されている。 一方、バイデン政権は、デジタル資産産業に対する連邦政府の監視を強化するため、省庁間の協力を強化し、具体的な提案を実施するよう各機関に指示している。
2022年6月に発表された超党派の責任ある金融改革法案(Responsible Financial Innovation Act、「Lummis-Gillibrand法案」)は、デジタル資産を商品又は証券に分類するための明確な境界線のルールを提案した。 注目すべきは、Lummis-Gillibrand法案では、従来のHoweyテストの下よりも狭い範囲でデジタル資産を証券として定義することが提案されている。 Howeyテストでは、資産の購入が、1)金銭の投資を 2)共同事業に対して行い、 3)利益を期待しており、 4)その利益が他人の努力から得られること、を伴う場合に、資産が証券として認定される。 これに対し、Lummis-Gillibrand法案では、デジタル資産は、購入者に対し、資産を発行する事業体における権利、例えば、負債や株式持分、利息や配当金の受給資格、その事業体の利益や収益の共有などを与えない限り、有価証券として認められないとされている。
Howeyテストでは証券と考えられるかもしれないが、この制限的な定義の下では証券に該当しないデジタル資産に対して、法案は商品として「付随資産(ancillary assets)」という新しい階層を設けている。 付随資産とは、ビットコインやイーサリアムのように、投資契約に基づいて購入者に提供されるが、資産を発行する事業体に対する権利を購入者に与えないデジタル資産と定義されている。 Lummis-Gillibrand法案は、デジタル資産分野を優遇しているとの批判を受け、すべての非証券デジタル資産を、SECと比較して人員や執行予算が大幅に少ないCFTCに独占管轄権を付与している。
同時に、Lummis-Gillibrand法案は、付随的資産の発行者に開示要件を課すことで、消費者保護の強化を図っている。 この要件は、現行の証券開示要件よりも緩やかではあるが、発行者に対し半期ごとにSECに提出する38項目の情報開示が課されるものである。 この開示要件は、前会計年度において、米国内のある付帯資産の1日平均の取引総額が500万ドルを超え、かつ、発行者又は発行者の株式の10%以上を所有する株主が、その資産の価値を決定する起業又は経営努力に従事した場合に適用される。 このように、Lummis-Gillibrand法案は、消費者がデジタル資産の購入に関して、十分な情報を得た上で意思決定できるようにすることを目的としている。
2022年8月に公開されたデジタル商品消費者保護法案(the Digital Commodities Consumer Protection Act、「Stabenow-Boozman法案」)は、定義の明確性は低いものの、同様のデジタル資産規制のアプローチを行っている。 Stabenow-Boozman法案は、Lummis-Gillibrand 法案と同様に、ビットコインやイーサリアムなどの仮想通貨を含む広範なデジタル商品の定義を示し、CFTCに対しデジタル商品に関する独占的な管轄権を認めている。 しかし、Lummis-Gillibrand法案とは対照的に、Stabenow-Boozman法案は、デジタル資産が証券に該当するかどうかに関する指針を提供していない。 したがって、Stabenow-Boozman法案が可決することにより、SECが多くのデジタル資産は証券に該当すると主張し続けるための影響が増す。
Stabenow-Boozman 法案は、Lummis-Gillibrand 法案に比べ、消費者保護に対する強固なアプローチを想定していないのは間違いないだろう。 Stabenow-Boozman法案におけるデジタル商品の開示要件は、CFTCへの登録のみである。 より具体的には、Stabenow-Boozman 法案はデジタル資産の発行者に対し必要な開示項目を特定するのではなく、CFTCに開示要件を発展させるための規則策定を行うよう指示している。
議会がLummis-Gillibrand法案及びStabenow-Boozman法案の審議を延期する中、バイデン政権はデジタル資産規制に対応するための省庁活動の枠組み案を発表した。 2022年3月9日、バイデン大統領は、米国財務省(以下「財務省」)に対し、他の省庁と協力して、金融安定化リスク、規制ギャップ、政策提言を特定する報告書を発行するよう指示する大統領令を発表した。
財務省は、その後2022年9月に、デジタル資産分野に対する連邦政府の監視を強化するための提言をまとめた3つの報告書を発表した。 これらの提言には、デジタル資産に関わる詐欺や市場操作に対抗するための米国司法省、SEC及びCFTC間の省庁間連携の強化、デジタル資産に関わる主要リスクの特定と評価のための大統領作業部会の金融・銀行情報基盤委員会などの省庁間機関の連携強化並びに米国中央銀行デジタル通貨の採用の可能性とリスクについて検討する財務省主導の省庁間作業部会が含まれていた。
財務省の提言に基づき、2022年9月16日、ホワイトハウスは 「責任あるデジタル資産の発展に対する包括的な枠組み("Comprehensive Framework for Responsible Development of Digital Assets" )」と題する報告書を発表した。 この枠組みは、デジタル資産産業に対する連邦政府の監視を強化するために、一連の具体的な措置を実施するよう各省庁に指示している。 注目すべきは、SECとCFTCの両機関に対し、強制措置の強化を求めている点である。 また、商務省には、連邦政府機関、企業、学界、一般市民を集め、デジタル資産に関する連邦政府の規制について情報を提供するための常設フォーラムを設置するよう命じている。 財務省は、デジタル資産を管理する米国の法律、規制及び監督体制におけるギャップを特定することに加え、分散型金融(DeFi)に関する不正金融リスク評価の完了に取り組んでおり、2023年7月までに非代替性トークン(NFT)に関する評価を完了させる予定である。
行政府が2022年9月に連邦政府が示した枠組みの実施に取り組む一方で、連邦議会両院の議員たちは、デジタル資産に対応するために追加の立法を要求している。 2023年1月、下院共和党は「デジタル資産、金融技術及びインクルージョンに関する小委員会」を設立した。 下院金融サービス委員会が監督するこの小委員会は、デジタル資産の生態系に対し、規制の明確性を与えるために活動する。 特に、同小委員会は、米ドルに裏打ちされたステーブルコインのための連邦規制の枠組みを構築することを計画している。
より最近では、2023年2月に上院銀行委員会が公聴会を開催し、最近の暗号資産の破産について議論した。 同委員会では、業界の自主規制を認める自由放任主義から、デジタル資産の第一次執行機関としてSECに明確な管轄権を付与することまで、デジタル資産規制に関する幅広い提案が法学者から聴取された。 公聴会では、Sherrod Brown委員長が、消費者資金の企業資産からの分離、デジタル資産発行者に対するより明確な情報開示と透明性の要求、監視と説明責任の強化についても提案した。 上院銀行委員会は、今後1年の間に、デジタル資産に関連する新たな法案を作成する意向である。
多くの立法担当者が、デジタル資産分野の成長促進と消費者保護のバランスを取ろうと試みている。 Lummis-Gillibrand法案とStabenow-Boozman法案は、ほとんどのデジタル資産を規制する独占的な権限をSECではなくCFTCに対し与えることで、業界の成長を促進し過ぎて失敗している。 一方、バイデン政権は、デジタル資産に関する包括的な規制の枠組みを確立するために、省庁間の協力をより強化するよう求めている。 しかし、これら2つのアプローチは、いずれも立法を通じてより明確化し、各機関がより具体的な専門知識を身につけるための道筋をつけようとする点で、補完的なものである。 議会とバイデン政権が足並みを揃えて動くとは限らないが、デジタル資産に関する連邦レベルの法及び規制の枠組みを確立するために、連邦政府の両部門が協調して努力することになる1年になるのは間違いないだろう。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
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