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クラス被告はその仲裁権を放棄できるか?Morgan判決以降の仲裁の意図について
(23/08/18)
最高裁判所は最近、Morgan v. Sundance Inc.訴訟において、連邦裁判所には連邦仲裁法の 「仲裁を支持する方針」に基づき、「仲裁を支持する特別な手続き規則」を作成する権限は与えられていないとの判示をした。142 S. Ct. 1708, 1713 (2022). この判決に先立ち、9つの連邦控訴裁判所は、仲裁の強制の申し立てを解決する際に使用するために、権利放棄の法理に独自の追加規定を設けていた。これらの裁判所は、仲裁に対する当事者が、申立当事者による仲裁強制の遅れによって不利益を被ったことを示すことを要求していた。Morgan 判決ではこのルールが明確に否定され、代わりに裁判所が契約紛争と同様に権利放棄やその他の契約上の法理を適用するよう求めた。Morgan 判決に続く第9巡回控訴裁判所の最初の意見は、この判示を適用することの難しさを示している。そこでは、たとえ指名された原告が仲裁条項の対象でなかったとしても、クラスアクションの被告が訴訟の初期段階で仲裁の意思を示さなかったことにより、仲裁権が放棄されたとする意見が多数を占めた。反対意見は、多数派の判示を斬新な「喪失」規則とみなし、原告が仲裁条項の対象でなく、クラスの範囲が不明であったとしても、クラスアクションの被告は仲裁権をできるだけ早く行使するよう注意しなければならないと警告した。
I. Tiffany Hill v. Xerox Business Services, LLC訴訟¸ 59 F.4th 457 (9th Cir. 2023)
A. 背景
本訴訟は、Xerox Business Services, LLC(XBS)が公正労働基準法およびワシントン州の各種報酬法に違反しているというTiffany Hillのクラス全体からの申し立てに端を発する。2002年にXBSは紛争解決計画(DRP)を発表し、その1項により署名者らが仲裁に拘束されている。2012年9月にXBSは、個人単位での仲裁を義務付け、クラスアクションの開始または参加を禁止する最新のDRPを発表した。2002年版DRPの署名者全員が2012年版DRPに署名したわけではない。Hill自身はどちらのDRPにも署名しなかったが、推定クラスの他のメンバーは署名していた。
2012年4月に提訴されたこの訴訟を通じて、XBSは、2012年DRPの署名者らが紛争を仲裁に委ねなかったことにより、行政上および契約上の救済手段を尽くさなかったこと、また、そのためにこれらの署名者がクラスアクションに参加することは明示的に禁止されていることを繰り返し主張した。XBSはまた、主に2012年DRPの非署名者としてのHillの地位に基づき、優位性を理由にクラスの認定に反対した。XBSは、DRPの非署名者であるHillは、クラスの他の構成員とは異なる弁護に直面することとなるため、クラスの構成員を適切に代表することはできないと主張した。XBSは、2012年DRPに関するこのような主張を、9年分ほどに値する訴答書面、本案ブリーフィング、ワシントン州最高裁判所に認定された中間抗告にわたって行った。XBSは、これらの法的手続きを通じて、2002年DRPの署名者の個別仲裁に関する議論や問題を提起することはなかった。
XBSが初めて、2002年DRPの署名者は、長らく訴訟の対象であった2012年DRPの署名者と同様に、個別の仲裁に拘束されると主張したのは、Hillが提案されていたクラスの範囲を2019年7月18日に定義するようになってからであった。しかし、XBSは2002年の署名者に対して仲裁の強制を申し立てることはせず、代わりにHillに対しての本案に関する訴訟を継続した。2020年3月5日に通知管理者が最初のクラス人数に関する報告を行った後、XBSはついに2002年のDRPに署名したクラス構成員による仲裁の強制を申し立てた。連邦地裁はこの申し立てを却下し、XBSが本案訴訟と同時に仲裁を求めなかったことにより、その仲裁を求める権利を放棄したと判断した。XBSは控訴した。
その後、連邦最高裁判所は、Morgan v. Sundance判決において、権利放棄の原則に対する「不利な遅延」の拡張が正しいかを争う意見を発表した。最高裁判所は、この拡張は仲裁合意を通常の契約よりも強制力のあるものにする不適切なものであるとして、この拡張は正しくないと判断した。その代わりに、裁判所は一般的な契約紛争に適用される標準的な権利放棄の原則を仲裁条項に適用すべきであるとした。正しく言えば、権利放棄のテストは、(1)仲裁を強制する既存の権利についての知識と、(2)その既存の権利と矛盾する意図的な行為のみを考慮する。しかしながら、最高裁判所の全会一致の意見は、裁判所が作成した 「訴訟よりも仲裁を支持する斬新なルール 」を禁止することに限定されていた。裁判所は、連邦法、あるいは「権利放棄、喪失、禁反言、遅延、手続き上の適時性に関する規則」さえもが、仲裁強制の申し立てを解決するための適切な枠組みであるかどうかについては、明確に未解決のままとした。
B. 意見
Hill 訴訟において、第9巡回控訴裁判所は、2部構成である権利放棄テストを適用してXBSの仲裁請求を評価した。第一部では、XBSは訴訟の10年間を通じて2012年DRPを提起し、2002年DRPに関する証拠開示を求めていた(ただし、これらの署名者に対して個別仲裁を強制する意思を主張することはなかった)ため、XBSは仲裁を強制する既存の権利を、クラスの認定の遥か前から知っていたと判断した。第二部に基づき、多数派はXBSの行動を総合すると、XBSは9年間にわたって本案訴訟を行いながら、仲裁強制の申し立てを意図的に控えていたと判断した。このことは、本案判決を「求め続けるという意識的な決定」を示していたのである。
最後にパネルは、連邦地裁がクラスの認定前の個人に対する管轄権を有していなかったために、これ以上早く仲裁強制を求めることは無駄であったというXBSの論点を退けた。同パネルは、権利放棄には裁判所の管轄権や、そもそも「訴訟が提起されていること」[1]は必要としないと主張した。 多数派はこの判決は限定的なものであるということを示し、これらの事実の下では、「XBSが2002年DRPの下で仲裁を強制する権利を放棄したと認定することは許されることであった」とした。
C. 反対意見
反対意見の中で、Lawrence VanDyke判事は、多数決が第9巡回控訴裁判所の「明確な権利放棄ルール」を「不透明な喪失ルール」に変えたとし、これにより「被告は、クラス構成員が誰であるかを知るかなり前から、また実際に訴訟を行っている指名原告との仲裁権がないにもかかわらず、その権利を積極的に主張しない限り、不在のクラス構成員に対する仲裁権を失う」事になると主張した。彼の見解では、XBSは2002年DRPの署名者の「請求を仲裁する意図と矛盾する行動を一度も取っていない」のである。 VanDyke判事は、XBSが「文字通り、仲裁を行えるようになった最初の日に」仲裁の強制を申し立てたという、議論の余地のない事実を強調した。VanDyke判事は、「当事者は、仲裁を強制する権利を放棄することを恐れることなく、通常のクラス認定前のクラス・ディスカバリー(precertification class discovery)に従事することが認められるべきである」と判示した。 彼は、多数派の判示は訴訟当事者にとって「新しい規則、及び不必要な不確実性の両方」、つまり 「勝ち目のない二律背反」を生み出すものであると考えている。
II. 結論
Hill 判決は、クラスの被告は、正式な申し立てを通してではなくとも、またクラスのリードメンバーが仲裁の対象でなくとも、可能な限り早期に該当する仲裁条項を特定し、仲裁の意思を主張すべきであると教示している。Morgan 判決は、仲裁強制の申し立てを認めるか否かを決定する際に、権利放棄やその他の契約原則をどのように適用するか、あるいは適用するか否かについては未決のままであったが、Hill 判決は、不利益に関する分析(prejudice analysis)がない場合にも、仲裁が放棄されたか否かを決定する上で訴訟の期間が重要な要素であることを示している。多数派の判示が、クラス被告の仲裁権の斬新な「喪失」ルールを生み出すのか、それとも単に権利放棄分析を再提示するに過ぎないのかは、今後の判例が判断することである。それまでの間、被告はHill 判決のような結果を避けるために、早期に仲裁の意思を表明するよう注意しなければならない。
[1]パネルはまた、2019年の最高裁判決に関連するXPSの2つ目の無益性の主張も短時間で評価し、却下した。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
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