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営業秘密訴訟の最新事情
(23/09/15)
2023年1月、連邦取引委員会は競業避止条項を禁止する新規則を提案した。 FTCの提案は、あらゆる競業避止条項を無効とするもので、「雇用主と労働者との間で締結される契約条項であって、労働者が雇用主との雇用関係が終了した後に、ある人物との雇用を求めたり、受け入れたり、事業を運営したりすることを妨げるもの」と定義されている。この規則案には、「事実上の」競業避止条項として機能する契約条項、すなわち労働者が他の雇用主との雇用を求めたり受け入れたりすることを禁止する効果を持つ契約条項に対する「機能テスト」も含まれている。
FTCはその規則案に対して17,000件以上のコメントを受け取った後、全会一致でパブリックコメントの期間を2023年4月19日まで延長することを決定した。FTCは延長した期間ののち、それまでに受け取ったコメントを検討し、その結果最終規則に変更を加える可能性がある。FTCの規則案が実施されれば、雇用主が従業員の離職に際して営業秘密保護法を利用して機密情報を保護する方法に影響を与える可能性がある。実際にFTCは、その提案している競業避止義務の禁止により、機密情報を保護しようとする雇用主の保護が危うくなることを認めつつも、「営業秘密法が、営業秘密」への投資及び「ビジネス上の機密情報」を保護する代替手段を雇用主に提供」するものであると強調している。
FTCはその提案の中で、「営業秘密をその盗難から救済」し、機密情報を保護する方法の一つとして、連邦営業秘密保護法(以下「DTSA」)を挙げている。 2016年に制定されたDTSAは、営業秘密が不正利用された場合、営業秘密の所有者が連邦裁判所に訴えることを認めるものである。ほぼすべての州が、営業秘密の保護を目的とした同様の法令を採用している。FTCが提案の中で言及しているように、DTSAの制定以来、営業秘密に関する訴訟件数は着実に増加しており、これは 「雇用者が営業秘密法を営業秘密の窃盗に対する救済を得るための実行可能な手段と見なしていることを示唆している」と言える。
FTCは、「情報が公に開示されないように保護されている限り、営業秘密に該当しない情報の種類は事実上存在しない」と強調しているが、それでも雇用主は、どのような特定の情報が営業秘密に該当するかを判断するために適用される要因を考慮する必要がある。一般的に、DTSAのもとで営業秘密に該当するためには、情報に(1)経済的価値があること、(2)一般に知られていないこと、(3)所有者が情報を秘密にするために合理的な手段を講じていることが必要とされる。
注目すべきは、競業避止条項が禁止される可能性があることで、「必然的開示」法理として知られる原則が今後の訴訟においてより関連性を持つものになるかもしれないという点である。特定の管轄区域では、それぞれの州法に基づきこの法理の適用が認められており、この法理は、被告の新たな雇用が原告企業の営業秘密に依拠することを必然的に導く可能性があることを証明することにより、原告が不正使用を主張することを認めるものである。Phoseon Tech., Inc. v. Heathcote, 2019 WL 72497, at *11 (D. Or. Dec. 27, 2019)(「17の州が、何らかの形で必然的開示の法理を採用しているようである。」) 他の管轄区域は、DTSAのもとで/又は一般的に、この法理の適用を否定している。Id. (「5つの州はこの法理を否定しているようである。」)さらに次の例も参照のこと:Whyte v Schlage Lock Co., 125 Cal. Rptr. 2d 277, 293 (Ct. App. 2002) (「我々の必然的開示の原則の否定は完全である」); Kinship Partners, Inc. v. Embark Veterinary, Inc., 2022 WL 72123 (D. Or. Jan. 3, 2022) (「DTSAは、必然的開示の原則に基づく救済は雇用の自由を奪うため、裁判所が救済を認めることを明確に禁止している。」); Human Longevity, Inc. v. J. Craig Venter Inst., Inc., No. 18CV1656-WQH-LL, 2018 WL 6617633 (S.D. Cal. Dec. 18, 2018). DTSA はこの問題について沈黙しているが、裁判所が営業秘密の実際の不正利用またはその「おそれ」のいずれかを防止するために差止命令を出すことができると規定している。18 U.S.C. § 1836(b)(3)(A)(i). DTSAが不正利用の「おそれ」に対して保護するため、一部の雇用主は必然的開示法理に基づいたDTSAのもとでの請求を試みてきた。しかし、DTSAは2016年に施行されたものの、DTSAのもとでこの法理を解釈する判例法はまだ比較的未整備であるため、DTSAが必然的開示の法理の適用を認めるかどうかについて司法のコンセンサスは得られていない状況である。
必然的開示法理を採用している管轄区域では、裁判所は一般に、不正利用のおそれに基づく差止命令による救済を認めるかどうかを判断する際に、以下の3つの要因を考慮している:1) 問題となっている雇用主が、同一または非常に類似したサービスを提供する直接の競合相手であるかどうか、 2) 従業員の新しい職務が以前の職務とほぼ同一であり、以前の雇用主の企業秘密を利用しなければ新しい職務の責任を果たすことが合理的に期待できないかどうか、それから3) 問題となっている企業秘密が両雇用主にとって非常に価値があるものであるか、である。参照:Sunbelt Rentals, Inc. v. McAndrews, 552 F. Supp. 3d 319, 331 (D. Conn. 2021). 最近では、元従業員が在職中に機密情報を取得し、後に競合他社で同様の地位に就いたことを示すだけでは不十分であるとした裁判所もある。例えば、イリノイ州北部地区の裁判所は、PetroChoice社が元従業員に対して提起したDTSAの請求を棄却し、その理由としてPetroChoice社は、元従業員がPetroChoice社に在職中に情報を取得し、その従業員がその情報を「必然的に開示する」と主張したにすぎないためとしている。 Petrochoice LLC v. Amherdt, No. 22-CV-02347, 2023 WL 2139207, at *5 (N.D. Ill. Feb. 21, 2023). 同裁判所は、「ある人物が競合他社で同様の地位に就いたという事実だけで、その人物が企業秘密情報を使用または開示することが必然的になるわけではない」と判示した。 Id. 同様に、ジョージア州の連邦裁判所は、必然的開示の原則に依拠した営業秘密訴訟を、雇用主は元従業員が営業秘密を使用または開示すると脅したことを主張しなかったとして棄却し、この際に「[被告が]たまたま[原告の]企業秘密を知っている2人の個人を雇ったと主張するだけでは十分ではない」と指摘した。AWP, Inc. v. Henry, 1:20-cv-01625-SDG, 2020 WL 6876299, at *1 (N.D. Ga. Oct. 28, 2020). この法理の潜在的な限界を判断する上で有益ではあるものの、判例法では、DTSAのもとで必然的開示の法理がどのような場合に発動されるのかについては、特定の状況下でその適用を認めている裁判所もあるにせよ明確ではない。Phoseon, 2019 WL 72497, at *11. Petrochoice LLC v. Amherdt, No. 22-CV-02347, 2023 WL 2139207, at *5 (N.D. Ill. Feb 21, 2023)。
総じて、DTSAの法定文言は「不正利用のおそれ」から保護すると定めており、これは競業避止義務契約の代わりに機密情報や営業秘密情報を保護する方法を提供する可能性がある。しかし、雇用主も従業員も同様にこの法令(「必然的開示」の原則を含む)を解釈できる範囲と程度はまだ不明であり、FTCの規則案が施行されればさらに関心が高まる話題となるかもしれない。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
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