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商標と著作権の最新情報
(23/10/27)
ここ数年、非代替性トークン(以下「NFT」)の出現により、商標法とデジタル資産の交差点に関する興味深い問題が生じている。 商標登録は、ブランドやそれに関連する商品・サービスを保護する上で重要な役割を果たしている。NFTへの商標法の適用はまだ始まったばかりであり、裁判所はNFTがいつ、どのように商標権を侵害するのかを定義し始めたばかりである。本論は、NFTをめぐる以下の最近の3つ、1) Hermès v. Rothschild、2) Yuga Labs v. Ripps、3) Nike v. StockX の商標法判例を要約し、議論する。これらの判例は、NFTと商標法の交錯を扱った最初の判例の一つであり、現実世界における商標権のバーチャル世界への拡張に関する斬新な問題を扱っている。
1.Hermes v. Rothschild, 1:22-cv-00384-JSR
2022年1月、Hermes International社は、アーティストのMason Rothschild氏に対し、Rothschild氏がHermes社のハンドバッグであるバーキンを描いた「MetaBirkins」として知られるNFTを通じてHermes社の商標権を侵害したとして、ニューヨーク南部地区連邦地方裁判所に提訴した。
裁判所がRothschild氏の棄却の申し立て、603 F. Supp. 3d 98 (S.D.N.Y. 2022)、及び略式判決を求める当事者クロスモーションを却下したのち、2023 WL 1458126 (S.D.N.Y. Feb. 2, 2023)、本事例は2023年2月にトライアルへと進んだ。Rothschild氏はトライアル前のブリーフィングでもトライアルにおいても、Andy Warholの版画と並列して、彼のNFTは憲法修正第1条で保護される芸術作品であると主張した。Hermes 社の商標を作品に使用することは、Rogers v. Grimaldi でのテストに従い、消費者に明示的に誤解させない限り許されると主張した。Rogers v. Grimaldi において、第二巡回控訴裁は、被告による商標の使用が (1)作品と「芸術的に関連」し、(2)作品の出所や内容に関して「明示的に誤解を招く」ものでない限り、ランハム法は「芸術作品」には適用されないと判示した。875 F.2d 994, 999 (2d Cir. 1989). 対してHermes社は、NFTは独占的商標の無許諾デジタル利用であり、混同の可能性の基準で評価する必要があると主張した。
2月8日、陪審はHermes社を支持する評決を下し、Rothschild氏がHermes社の商標を侵害したと認定した。Dkt. 144. Rakoff 判事はその陪審説示(Dkt. 143)において、Rogers のテストにほぼ従った。
3月3日、Hermes社は、Rothschild氏によるMetaBirkins NFTの販売促進を永久に阻止することを求める終局的差止命令の申し立てを行った。Dkt. 165. さらに3月14日、Rothschild氏は証拠不十分と不適切な陪審説示を主張し、JMOL動議もしくは再トライアルを求める新たな申し立てを行った。 Dkt. 172.
6月23日、Rakoff判事はRothschild氏に有利な判決、もしくは再トライアルの請求を却下し、代わりにHermes社の終局的差止命令の申し立てを認めた。2023 WL 4145518 (S.D.N.Y. June 23, 2023). 裁判所は、消費者に混同を生じさせる可能性があるとして、Rothschild氏に対し、バーキンの商標を使用すること、またはMetaBirkins NFTの出所について公衆に誤解を与えることを禁止した。さらに、裁判所はRothschild氏に対し、ドメイン名www.metabirkins.comand 関連資料をHermes社に譲渡すること、およびトライアルの開始以来、MetaBirkins NFTから得た利益をすべて放棄することを命じた。
同裁判所の見解は、NFTを芸術表現として認めながらも、そのようなデジタルアート作品の出所について消費者に誤解を与えることを避ける必要性を強調している。Dkt. 191を参照。なお、本ノートの発表時点では、控訴は提起されていない。
2.Yuga Labs, Inc v. Ripps, 2:22-cv-04355-JFW-JEM
2022年6月、Bored Ape Yacht Club(以下「BAYC」)NFTの作成者であるYuga Labs社は、自称アーティストのRyder Ripps氏とJeremy Cahen氏がBAYC NFTと同じ画像と商標を使用したNFTを作成したとして、カリフォルニア州中部地区連邦地方裁判所に商標権侵害で提訴した。Yuga Labs社は、アーティストらは意図的に消費者に混乱を引き起こし、彼らのビジネスに損害を与えることを目的としていたと主張した。Ripps氏とCahen氏はその答弁書で、彼らのコレクションはBAYC NFTを風刺したものであり、Yuga Labs社の請求は憲法修正第1条とフェアユースによって妨げられると主張した。
2023年3月、Yuga Labs社は略式判決を申し立て、4月に裁判所はこの申し立てを認め、被告がYuga Labs社の商標権を侵害したと認定し、損害賠償のみに限定しトライアルを設定した。 2023 WL 3316748, at *1 (C.D. Cal. Apr. 21, 2023) を参照。裁判所は、Rogersテストは適用されないと結論づけ、被告らの主張とは異なり、被告らのコレクションは憲法修正第1条の下で保護される芸術表現として適格ではないと判断した(HermesにおけるRakoff判事の「関連する画像を含むMetaBirkins NFTは、少なくともある点では芸術表現の著作物である」とした陪審説示とは対照的に)(Hermes, Dkt. 143)。裁判所はさらに、仮にRogersテストが適用されるとしても、被告は意図的に消費者を欺こうとしたと判断した。同判決は、同コレクションに関連するドメインrrbayc.comとapemarket.comには、Yuga Labs社のブランディングと紛らわしいほど類似したブランディング要素が含まれていると指摘した。判決は、NFTは単なるデジタル証明書ではなく、ランハム法上の仮想商品とみなされることを強調し、「ランハム法上の責任を負うためには(被告の商品は)有形である必要はない」というHermesでのRakoff判事の判決に同意した。2023 WL 3316748, at *4.
3.Nike v. StockX, 1:22-cv-00983-VEC
2022年2月、Nike社は、主にスニーカーを扱うオンラインマーケットプレイス兼衣料品再販業者であるStockX社を相手取り、ニューヨーク南部地区連邦地方裁判所に提訴した。 Nike社は、StockX社がNike社の商標を無断で使用して「Vault NFT」と呼ばれるNFTを製造し、大幅につり上げた価格で販売していると主張した。Nike社の主張は、NFTと関連する物理的商品との結びつきが、ランハム法上の商品とみなされるかに影響するかという問題を提起しているものである。
StockX社はその答弁書の中で、フェアユースの積極的抗弁を主張し、Nike社の請求は、合法的に商標登録された商品の購入者が、その商品を元の商標の下で展示、提供、販売することを認めるファーストセール・ドクトリンによって阻止されると主張した。StockX社はまた、Vault NFTはそれぞれ物理的な商品(すなわちNike社のスニーカー)と結びついているため、「絶対に『バーチャル商品』やデジタルスニーカーではない」と主張した。 Dkt. 41 at 5. StockX社は、Vault NFTを購入した消費者は、「継続的な所有に関して次の2つの選択肢、(1) Vault NFTのデジタル所有権を保持」し、物理的な靴はStockX社の在庫に残す、または「(2) いつでも保管庫から物理的な商品を引き取る事ができ、その場合には、Vault NFTは顧客のデジタルポートフォリオから削除され、永久に流通から排除される。」があると主張している。Id. Nike社は、一部のVault NFTが関連するシューズから切り離され、「Vault NFT の所有者からそのNFTに関連するとされているシューズの所有権を奪っている」と主張している。 Dkt. 39 at 4. 当事者間で議論の余地がないのは、Vault NFTは複数回転売可能である一方、NFTに元々関連していた靴はStockX社の在庫に残るということだ。しかし、StockX社によると、各NFTは、元々関連付けられた特定のスニーカーと引き続き関連付けられるとのことである。また、StockX社が主張するように、各Vault NFTは特定のスニーカーのデジタル領収書として機能するため、StockX社はさらに、各Vault NFTは実際には別の商品として販売することはできないと主張している。これに対しNike社によると、NFTが、その買い手が購入した関連する物理的なスニーカーの所有権を主張することなく、また関連するスニーカーから切り離されることなく、複数回転売できるため、Vault NFTは単なるデジタル領収書ではなく、むしろ別個の商品であるという。 Nikeはまだ終局的判断を求める申立ての段階には至っていない。
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Nikeの結果は、NFTと物的資産との間に相互関係がある場合に商標がどのように扱われるかに影響を及ぼすと思われる。HermesやYuga Labsで問題となったNFTとは異なり、各Vault NFTは特定の物的資産、すなわちスニーカーと関連付けられている。Nikeは、物的資産に関連するNFTの作成、購入、販売に関する判例を確立し、商標権侵害と消費者に与える混同との間の境界をさらに明確にするかもしれない。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
chietogawa@quinnemanuel.com