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米国政府による輸出管理法の積極的な施行。国際商取引に携わる企業の悩みの種に?
(23/11/10)
「制裁は新たなFCPAだ。」Lisa A. Monaco司法副長官は昨年、そしてその後も何度にもわたってそう宣言してきた。しかし、多くの弁護士たちは、それが何を意味するのかよくわからないままであった。特別指定国民(SDN)とのビジネスは、規則上ライセンス(財務省はこれをなかなか認めない)がない限り米国の法的代理権さえもが排除され、危険と隣り合わせであるということは、何年も前から明らかであった。しかし、昨年、政府がその再活性化した制裁執行プログラムは、輸出管理改革法と関連する輸出管理規則にますます依存するようになってきた。その結果、かつては主に国際貿易取引関係者の管轄であった規制体制は、ホワイトカラーや政府訴訟の世界の最前線へと躍り出ることとなった。そして、割り当てられるリソースの増大、省庁間および国際的なタスクフォースの設置、それから最近の相次ぐ執行措置を踏まえると、国際的な商取引に携わる企業は、当分の間、監視の目にさらされ続けることになりそうであり、警戒を怠らないでいる必要があると言えよう。
輸出管理改革法と輸出管理規則とは? 米国の輸出管理体制の歴史は古く、第二次世界大戦中に米国が参戦することを見越して連邦議会が1940年に輸出管理法を可決したことに遡る。その後の一連の法律(1949年輸出管理法、1979年輸出管理法等)は、当初の法律を補強し、輸出管理規則(15 CFR §§730-774、またはEAR)を生み出した。ごく最近、連邦議会は2018年輸出管理改革法を可決し、これはEARに恒久的な法的権限を与えることとなった。
EARは「デュアルユース商品」(主に、軍事的用途または応用の可能性がある商用商品)の輸出を規制している。商務省産業安全保障局はEARの管理と執行を担当している。EARは、本質的に軍事的な性質を持つ物品、サービス、および関連する技術データに関するものであり、そのため国務省が管理している国際武器取引規制(ITARとも呼ばれる)とは区別されるものである。EARはまた、財務省外国資産管理局(しばしばOFACと呼ばれる)が管理する経済制裁および貿易制裁とも区別される。
EARに違反した場合、行政罰、輸出特権の否認、さらには禁固刑が科されることもある。商務省が科す罰金は、353,534 米ドルまたは取引額の 2 倍に達することがある。合衆国法律集第 50 編第 4819 条(c)(1);88 Fed. Reg. 3を参照のこと。後述するように、商務省は最近、交渉による解決の一環として、ある違反者に 3 億ドルの罰金を科した。EAR の故意の違反は、違反 1 件につき 100 万ドルの刑事罰、資産の没収、および最高 20 年の禁固刑を課される可能性がある。合衆国法律集第50編第4819条(b)、(d)。
どのような活動や製品がこの規則の対象となるのか? EARは非常に複雑な規則であり、その完全な説明は本稿の範囲を超える。しかし一般的に言えば、EARは特定の商品、ソフトウェア、技術の「輸出」と「再輸出」を規制しているものである。「輸出」には、米国外への物品の物理的な出荷や転送だけでなく、米国内の外国人に対する技術、ソースコード、関連情報の開示やその他の転送(いわゆる「みなし輸出」)も含まれる。「再輸出」とは、ある外国から別の外国への出荷のことであり、「みなし再輸出」とは、外国内で別の外国の者へと開示をすることである。 連邦規則集第 15 編第 734.13-14 条。
EARは、米国に所在する、または米国を原産地とするすべての品目だけでなく、多くの外国製品目や外国で生産された品目にも適用される。例えば、定義された量以上の米国原産品を含む外国製商品、ソフトウェア及び技術は、EAR により規制される可能性がある。連邦規則集第 15 編第 734.3 条。例えば、外国製コンピュータは、それ自体が EAR の対象となる米国原産の回路基板技術を組み込んでいる場合、 EAR の対象となり得る。このようにEAR は、その条項により域外適用され、つまり、外国で行動する非米国人は、その行為が規制に違反する限り、責任を問われる可能性があるのである。
EARは、主に特定の種類の品目と特定の輸出先に基づいて構成されており、商務省産業安全保障局(またはBIS)は、商取引管理リストと商取引カントリーチャートの2つの対応するリストを管理している。管理リストは、品目を9つの大分類(例えば、「電子機器」、「コンピュータ」、「航法および航空電子機器」)に分類し、それぞれが5つのグループ(「機器、組立品および部品」、「試験、検査および生産設備」、「材料」、「ソフトウェア」、「技術」)で構成されている。管理リストには管理理由(例えば、「暗号化品目」、「通信傍受」、「ミサイル技術」)も記載されており、最後にEARの対象となる商品、ソフトウェア、技術の種類ごとに英数字コードが記載されている。そして商取引カントリーチャートでは、国ごとに、その国への特定品目の輸出にライセンスが必要であるかが説明されているのである。
EAR には、管理リストやカントリーチャートを越えて適用される特定の「一般的禁止事項」も含まれている。 例えば、一般的禁止事項5は、特定のエンドユーザ及び最終用途(例えば、ビルマ、カンボジア、中国、ロシア、ベネズエラの軍事用最終用途、及び指定人物に関する長いリスト)への輸出及び再輸出を禁止している。 一般的禁止事項6では、キューバ、イラク、イラン、北朝鮮、ロシア、ベラルーシ、シリアなどの禁輸国への輸出または再輸出にライセンスを要求している。一般禁止事項には、全部で10の事項が存在する。15 CFR Part 736.
これらの規則の執行を強化するために、政府はどのような新しい手段を用意しているか? 拡大されたリソース、省庁間および国際的なパートナーシップ、そして新しく更新された執行方針の組み合わせを通じて、バイデン政権は輸出規制の施行を強化し、製造業者、荷送人、およびハイテク商品やサービスの経済への他の参加者にとって多くの新しいリスクを生み出した。
拡大されたリソース。ウクライナ戦争、中国との緊張の継続、その他の地政学的脅威に刺激され、司法省は輸出管理違反を起訴する国家安全保障部に25人の検察官を追加すると発表した。司法省はまた、2023年9月11日付で企業取締のための主任顧問を任命するなど、企業の取締に重点が置かれることを示唆した。 民事面では、商務省の輸出管理執行予算も増加した。2023会計年度、連邦議会は商務省のBISへの予算を25%以上増額した。
省庁間および国際的なパートナーシップ。BISはまた、多くの省庁間および国際的なパートナーシップの中心となってきた。その最たるものが「破壊的技術ストライクフォース(Disruptive Technology Strike Force)」である。2023年2月に発表されたこのイニシアティブには、BISの捜査官、司法省国家安全保障局の検察官、FBIと国土安全保障省の捜査官、全米14の連邦検事局の検察官と捜査官が参加している。ストライクフォースの共同議長は、Matt Axelrod輸出取締次官補とMatt Olsen国家安全保障担当司法次官補が務めている。同ストライクフォースは、わずか3ヶ月の間に、複数の逮捕、起訴、一時的な否認命令を含む、全米での5つの協調的執行措置を発表した。これらの事例は、ロシアの民間航空会社への部品及びコンポーネントの供給、米国のテクノロジー企業からコードを不正流用し、中国の競合他社に提供すること、ロシアの軍事・諜報機関に機密技術を提供することなどの行為に関するものであった。
ウクライナで戦闘が始まった直後に発表されたタスクフォース・クレプトキャプチャー(Task Force KleptoCapture)は、商務省、国務省、財務省のほか、FBI、連邦保安庁、米国シークレットサービス、国土安全保障省捜査局、IRS犯罪捜査局、米国郵政検査局などのリソースを結集し、米国やその他の国がウクライナでのロシアの攻撃を受けて課した広範な制裁措置、輸出制限、経済的対抗措置を執行するものである。
2023年7月、BISとOFACは両機関の協力を記念する正式な協定に署名した。この協定は、BISとOFACの執行チームがさらに緊密に協力し、制裁措置や輸出管理違反者との共同解決を図ることを目的としている。
同様の取り組みは国際レベルでも見られる。2023年6月、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、英国、米国の「ファイブ・アイズ(Five Eyes)」同盟加盟国は、輸出管理執行に関する正式な協調に合意した。この協定は、輸出管理違反者、脱税やそれに類する問題行為、その他各国の取締機関が収集した傾向やデータに関する情報共有の強化を定めているものである。BISはまた、他のファイブ・アイズ加盟国と共同調査や協調した取締りを実施する予定であると発表した。商務省関係者は、G7加盟国間でも同様の協定の締結を目指している。
新しく更新された執行方針。商務省における3つの重要な方針への変更が、取締り活動の増加に寄与している。最も物議を醸したのは、BISが、企業が潜在的な違反を自己申告しなかった場合に罰則を科す方針を採用したことである。多くの企業は、企業が自発的に法律違反について自己申告をした場合に、寛大な措置をとることが推奨されている司法省やその他の規制当局の方針に精通している。しかし、「アクセルロッド・メモ(Axelrod Memo)」と呼ばれるようになったもの(この政策を導入したMatt Axelrod輸出取締次官補の名前にちなんでいる)において、BISはさらに一歩踏み込んで、自主的な自己開示は引き続き減軽要因となるだけでなく、自己開示を怠った企業への厳罰を正当化する加重要因となると発表した。これは、潜在的な違反を発見し、今後の対応を検討している企業にとってリスクを高めることになるものである。アクセルロッド・メモでは競合他社や他社の違反を報告した企業に対して、さらなるメリットが与えられているために、これは特にそうである。具体的には、他社による違反を報告した企業は「並外れた協力」を行ったとみなされ、後にBISに狙われることになった場合、さらなる減免措置が受けられる。 つまり、潜在的な違反を発見した企業は、自己開示しないことを選択した場合、追加的な罰則に直面するだけでなく、競合他社や市場関係者によって積極的にBISへとその証拠の提供がされている可能性がある。
BISが企業への圧力を強めることができるようになったのは、他に2つの変更があったからである。 第一に、BISは現在、違反者との解決(resolution)に至るまで告発状を発行することを待つのではなく、事案の冒頭で告発を公表するようになっている。その結果、企業は公の告発によって生じた不確実性の雲を取り除くことができるようにBISとより迅速に解決するよう、より大きな圧力に直面することになる。第二に、BISの方針はもはや企業がno-admit-no-deny(是認も否認もしない)の和解を結ぶことを認めていない。SECやFTCなど多くの民事規制機関とは異なり、BISは現在、交渉による解決の一環として、企業が行為を認めることを要求している。
政府はこれらの新しい手段をどのように使っているのだろうか? 輸出管理の取締りは昨年、極めて活発に行われた。前述の破壊的技術ストライクフォースによる逮捕に加え、司法省は輸出管理違反に関わる事件で多くの逮捕を行い、多くの有罪判決を獲得している。 例えば、2023年8月31日に米国の要請を受けたキプロスの法執行機関は、ロシア軍が使用する電子部品を供給する企業のために、米国調達のマイクロエレクトロニクスを入手した疑いで、ロシアとドイツの二重国籍者を逮捕した。United States v. Petrov, No. 23 Mag. 6023 (S.D.N.Y). 別の事例では、カリフォルニア州を拠点とする電子機器販売会社およびその社長とオーナーが、半導体製造に使用される化学薬品を中国の会社に輸出する計画の一環として、BISの捜査官および税関職員から情報を隠していたとして有罪を認めた。United States v. Jiang, No. 20 Cr. 43 (D.R.I.).
BISの側でも、3億ドルの罰金を含むいくつかの重要な決議を行っている。この事例では、カリフォルニア州を拠点とするデータ・ストレージ企業Seagate Technology社とそのシンガポール関連会社が、米国の制裁と輸出規制の対象となっている中国の製造企業Huawei社に数百万台のハードディスク・ドライブを出荷した。In re Seagate Technology LLC, Bureau of Industry Security (Apr. 19, 2023). 別の事例では、BISはサウスカロライナ州に拠点を置く3Dプリンティング企業が特定の技術をドイツに、特定の航空宇宙技術および金属合金粉末を中国に輸出したとして和解に達した。In re 3D Systems Corp., Bureau of Industry and Security (Feb. 27, 2023).
輸出管理違反や強制措置のリスクを軽減するために、企業は何ができるのか? 輸出規制と広範な制裁体制は常に進化しており、機密技術やその他の潜在的なデュアルユース商品を扱う企業は、遵守に向けた注意深い努力の確固たる記録を作らなければならない。輸出管理法違反が発覚した場合の重要な緩和策は、あらゆる刑事違反と同様、適時かつ自発的な自己開示、政府調査への全面的な協力、完全かつ効果的な是正である。司法省国家安全保障局が2023年3月に導入した方針では、これら3つの措置を講じた企業は、悪質な事情がない限り、不起訴合意を得、罰金を免除される。結果として、企業は以下の予防的措置を講じることを検討すべきである。
リスクアセスメントを実施する。事業所の所在地、業種、市場の競争力、潜在的な顧客やビジネス・パートナー、外国政府との取引などを考慮する。現在存在しているポリシー、手続き、統制を評価し、それらが会社の直面する現在のリスクに適したものであるかを確認する。会社は、核技術の販売や、ロシアなど話題の多い地域への輸出などのリスクの高い分野ではなく、リスクの低い分野の取締まりに不均衡な時間を割いていないか。会社内に自社が過去に起こした問題や、類似企業から得た教訓を追跡し、統合するプロセスがあるかを確認する。また、このような分析を実施し、会社が直面する特定のリスクを特定し、それに対処するために使用する方法論を必ず文書化しておく。
ポリシーと手続きの見直しと更新。輸出管理違反を検知する、あるいは最低限会社の経営陣に潜在的な問題について警告をする、賢明で効果的なポリシーと手続がなければ、多くの場合、適時かつ自発的な自己開示は不可能である。 リスクアセスメントに基づき、新たなポリシー・手続を策定・導入し、既存のポリシー・手続を更新するための会社のプロセスが効果的であるかを検討する。ポリシー及び手続の設計に会社の適切な担当者が関与していること、及び、それを展開する前に適切な事業部門が相談を受けていることを確認する。会社が従業員にポリシーや手順を効果的に伝えられているかを考慮する。そして、会社が直面するさまざまなリスクを反映し、それに対処するためのポリシーと手続きを管理し、実施するためにとった努力を必ず文書化する。
研修およびコンプライアンス・システムが会社に適していることを確認する。従業員が各自の役割に関連する主要なリスクに関する研修を受け、研修がインタラクティブで効果的であり、研修で取り上げた情報を従業員が確実に内面化するための適切な仕組みがあることを確認する。出席表、研修後のクイズ、従業員による受講完了の旨の通知、その他会社の研修の取り組みの証拠を収集し、保存する。
コンプライアンスに対する中間管理職および上級管理職のコミットメントを文書化する。 会社のコンプライアンス及び是正努力の重要性を示すために経営陣が取った具体的な行動を特定し、文書化する。
コンプライアンスへの取り組みに十分なリソースを確保する。会社のコンプライアンス担当者は、会社の輸出管理法へのコンプライアンスを効果的に取り締まることができるように、シニオリティと独立性、経験と能力、資金と資源、社内でのアクセス、自主性を備えていなければならない。
文書およびその他の証拠を確実に保全するための措置を実施する。効果的なコンプライアンス・プログラムには、潜在的な問題を発見するためにこのような保全が必要であるだけでなく、政府の調査に全面的に協力するためには、関連する文書や情報を適時かつ自主的に保全、収集、認証、開示する必要がある。
また、潜在的な問題が発生した場合は、直ちに経験豊富な弁護士に依頼し、会社のエクスポージャーについて評価し、対応戦略を策定する。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法事務弁護士事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
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