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連邦証拠規則702の改正―1年を振り返って
(24/09/20)
連邦証拠規則702の改正―1年を振り返って
連邦証拠規則702は、連邦裁判所における専門家証人の証言の証拠能力について規定している。2023年4月、最高裁判所は規則702を次の2つの点で改正するように命じた。第一に、「専門家証言は、その証言が規則に定められた要件を満たされている可能性の方がそれを満たされていない可能性よりも高いことを、それを証拠として採用することを主張する者が裁判所に対して証明しない限り、認められないことを明確にし、強調するために」改正すること。
Advisory Committee Notes to 2023 Amendment to Fed. R. Evid. 702参照。第二に、「専門家の意見は、専門家が拠って立つ根拠と方法論を適切に適用することによって導かれる結論の範囲内に留まらなければならないことを強調するために」改正すること。同上参照。
この二つの目的を達成するため、規則702の文言は以下のように改正された:
知識、技術、経験、訓練、または教育により専門家としての資格を有する証人は、それを証拠として採用することを主張する者が裁判所に対して、以下のすべての点について、それが満たされている可能性の方が満たされていない可能性よりも高いことを証明した場合に、意見またはその他の形式で証言することができる。
(a) 当該専門家の科学的、技術的、またはその他の専門的知識が、事実審理者が証拠を理解し、または争点となっている事実を判断するのに役立つこと
(b) その証言が十分な事実またはデータに基づいていること
(c) その証言が信頼できる原則と方法の産物であること
(d) 当該専門家は、その拠って立つ原則と方法論を適切に反映させた意見を当該案件の事実に信頼できる形で当てはめていること
委員会注記は、この改正が法律を変更することを意図したものではなく、裁判所が本来適用すべきであったものの残念ながら長い間ずっと適用されていなかった正しい規則702の分析を明確にするためのものであることを明示している。Advisory Committee Notes to 2023 Amendment to Fed. R. Evid. 702参照。
では、改訂から1年後の現在、この明確化は何をもたらしたのだろうか。簡単にいうと、この改正の実質的な効果は微妙なものであった。McCoy v. Depuy Orthaopedics, Inc., No. 22-CV-2075 JLS, 2024 WL 1705952, 9頁 (S.D. Cal. Apr. 19, 2024)(規則702の2023年改正は、被告が主張するような大変革を意味するものではない)参照。とはいえ、過去1年間の規則702の裁判例を見てゆくと、少なくとも2つの分野で注目すべき変化が認められる。それは、非科学的な業界専門家による証言の許容と、それに関連した「ツールマーク(切除痕)*訳者注」に関する専門家証言の許容についてのものである。これは、多くの場合法医学的分析に関連するが、どのようなツールが特定の切除痕を形成したかという点に関する専門家証言の許容という問題についてのものである。まとめると、裁判所はこのような証言を認めるための基準を以前より若干高く設定している。そしてこれは、2023年改正が、「刑事・民事事件の両方における法医学専門家の証言に特に適切である」という諮問委員会の注釈に沿ったものである。Advisory Committee Notes to 2023 Amendment to Fed. R. Evid. 702参照。以下は、2023年改正に依拠し、規則702に基づいて証拠を除外したいくつかの事例である:
非科学的業界専門家:
Skaggs v. Ferrellgas, Inc., 2023 EL 8711898 (S.D. Ind. Dec. 18, 2023)において、専門家は、「安全衛生専門家としての45年以上の経験」に基づき、プロパンガス・ディスペンサーに関するいくつかの意見を記載した報告書を作成した。上記3頁参照。裁判所は、「重要なことは、規則702(d)が改正され、専門家の意見は、専門家が拠って立つ根拠と方法論の適切な適用から結論づけられる範囲内にとどまらなければならないことが強調されたということである」、「非科学的な問題を扱う専門家と言えども、意見を形成する際に適切な方法と原則を採用しなくてはならないが、(この専門家は)そうしていない」としてこの報告書を証拠から除外した。上記参照。
同様にFarmers Ins. Co. v. DNS Auto Glass Shop LLC, 2024 WL 1256042 (D. Ariz. Mar. 25, 2024)では、被告は専門家に対し、ガラスや人間の労働などの「フロントガラス交換サービスを構成する要素の一般的な競争価格帯」について証言するように求めた。上記10頁参照。裁判所は、規則702の2023年改正を明確に指摘した上で、この専門家は、自身の意見を裏付けるために「長年にわたる会話への曖昧な言及と相まって、業界における一般的な経験」を提供しただけであり、言い換えれば、自身の思いつきに過ぎないため、被告は「(専門家の)意見が規則702の要件を満たしていることを、証拠の優越性によって示していない」と判断した。上記参照。
United States v. Diaz, No. 24-CR-0032 MV, 2024 WL 758395, (D.N.M. Feb. 23, 2024)では、裁判所は新しい規則702の改正に依拠し、法の執行者が、「一定量のコカインは…個人使用を超えており、販売用のそれと一致する」、「本件で押収されたコカインの価値」、「麻薬密売人は通常銃器を携帯している。それは自分自身とその利益を守るためである」という業界経験に基づく専門家証言を行うことを禁止した。Austin v. Brown, No. 2024 WL 1602968, 24頁 (D. Colo. Feb. 22, 2024)(規則702の2023年改正に基づき、自称「虚偽自白の専門家」の特定の証言は十分に検証可能でないため、除外するよう勧告)参照。
最後に、Post v. Hanchett, 2024 WL 474484, (D. Kan. Feb. 7, 2024)では、原告は、「トラック運転手、トラック運転インストラクター、トラック運転コンサルタント、事故調査官、フォークリフト・重機オペレーターとして15年以上の経験を持つ2代目のトラック運送についての専門家」である専門家証人による、トラックタイヤのパンクの原因に関する専門家証言を認めることを求めた。上記5頁参照。しかし、裁判所は、規則702の2023年改正を指摘し、原告は彼女の求めた専門家が単に業界について経験を有するというだけでは、専門家証人としての適性を有することを証明したことにはならないと判断した。同上参照。
切除痕についての証言
United States v. Graham, No. 4: 23-CR-00006, 2024 WL 688256, (W.D. Va. Feb. 20, 2024)では、刑事被告人は、「銃器およびその切除痕分析の分野は本質的に欠陥がある」と主張し、したがって、「その分野の一般的な方法論の適用に基づく」専門家の意見は、「ドーバート法の下では信頼できず、…除外されるべきである」と主張した。上記1頁参照。裁判所はこのような極端な結論には同意しなかったものの、それでも「規則702の最近の2023年改正に基づき」、切除痕についての証言は米国司法省の統一基準に沿うように制限されなければならないと判断した。同上参照。その理由は、司法省の基準により陪審員は専門家の「言葉を絶対的な真実として」鵜呑みにしないようにされているところ、上述のように制限されることによってその証言は、「各専門家の意見は、専門家の根拠と方法論の信頼できる適用から結論づけられる範囲内にとどまらなければならない」という改正規則702の趣旨を満たすことになるからであるというものである。Advisory Committee Notes to 2023 Amendment to Fed. R. Evid. 702参照。
最後に、United States v. Briscore, 2023 WL 8096886, 12頁 (D.N.M, Nov. 21, 2023)において、裁判所は同様に、「切除痕識別証拠の機械的な認容の長い歴史と、法医学的証拠全般に関する批判の高まりとの間に緊張が生じた」。それは「規則702の改正案は、法医学専門家の証言を機械的に認めることを制限し、裁判所がゲートキーピング業務を果たす権限を与えるという諮問委員会の意図を反映している」ために、裁判所は切除痕についての専門家の証言を大幅に制限したからであると指摘している。上記12頁はUnited States v. Johnson, 2019 WL 1130258 12頁 (S.D.N.Y. Mar. 11, 2019) aff’d, 861 F. App’x 483 (2nd Cir. 2021)を参照する。
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これらの裁判例は、規則702およびドーハート判決の大きな転換を意味するものではない。また、規則702の改正は、法律を明確にするものであり、決して法律を変更するものではない。しかしこれらの裁判例は、裁判所が2023年改正を指摘して、特に非科学的業界専門家およびツールマーク証拠(および類似の分野)において、専門家証言の許容性について若干の精査を行うことを正当化する可能性があることを示している。
*訳者注:
切除痕のこと。銃身の内側には斜めに溝が切られているが、これを切る際に切除痕(ツールマーク)が残る。これは大量生産品であっても1本1本異なるため、発砲の際に銃弾の弾頭が切除痕に接触することによって残る線条痕は、銃ごとに異なることになる。これは銃弾から銃を特定するための極めて有力な手段である。
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法共同事業法律事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
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マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
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