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セラニーズ対ITC:AIA施行後の製造方法特許に対する特許販売禁止条項は変更なし
(24/12/20)
2024年8月12日、連邦巡回控訴裁判所は、セラニーズ・インターナショナル社対国際貿易委員会の訴訟において、リーヒ・スミス米国発明法(AIA)施行後の販売禁止条項の範囲に関する判決を下したⅠ。具体的には、特許権者が特許の有効出願日より1年以上前に、その方法で製造された製品を販売していた場合、その方法が秘密であっても、販売禁止条項により特許化が妨げられると判断が下されたⅡ。この判決は、AIA施行後の販売禁止条項がAIA施行前と変わっていないことを確認したのみならず、D.L.オールド事件やメタライジング事件などのAIA施行前の裁判例が、引き続き販売禁止条項に適用されることも確認したⅢ。
後述するように、このセラニーズ判決は、国内外で販売される製品に使用される秘密の製造方法について、異なる形態の知的財産保護を比較検討している企業にとって重要な意味を持つものである。
I. 背景
この控訴は、セラニーズ社が19 U.S.C. §1337(「Section 337」)に基づき、中国の化学メーカーである安徽金禾社が輸入・販売する人工甘味料について、国際貿易委員会(ITC)に調査を要請するという申立てについての控訴であるⅣ。この申立てにおいてセラニーズ社は、人工甘味料の製造方法に関する自社のAIA施行後の特許が、金禾社の甘味料製造によって侵害されていると主張したⅤ。セラニーズ社は、その主張する特許の最も早い有効出願日の1年以上前から、自社の特許方法を秘密裏に使用してAce-K甘味料を製造・販売していたことを認めているⅥ。すなわち、セラニーズ社は、AIA施行前の確立された裁判例に基づけば、主張する特許が販売禁止条項により無効となることは認めていたⅦ。しかし、セラニーズ社は、AIAが35 U.S.C.§102(a)(1)における販売禁止条項の範囲を変更したため、過去のAce-Kの販売は、AIA施行後に出願された特許を無効にすることはないと主張したのであるⅧ 。
国際貿易委員会(ITC)の行政法判事(ALJ)は、セクション337違反はないと判断し、AIAが§102の販売禁止条項の意味を変更したとするセラニーズ社の主張を退けたIX。この判断において、ALJは、最高裁のヘルシン判決を重視した。ヘルシン判決では、議会は、AIAを制定した際に販売禁止条項を変更しておらず、製品の秘密販売が後に出願されたその製品に関する特許を無効にし得るという判断が示されていたX。
II. 連邦巡回控訴裁判所への控訴と判決
控訴審において、セラニーズ社は、以下の3つの理由により、AIAが秘密の製造方法に関する販売禁止条項の範囲を変更したと主張した:
1. AIA施行前と施行後の§102の文言の相違XI;
2. 35 U.S.C.§271および§273による侵害に対する抗弁に関して、特許を受けた製造の方法についての議論に用いられた具体的な文言;および
3. AIAに関する立法経緯。
ここで明確にしておく必要があるのは、セラニーズ社の控訴の範囲は非常に限定的なものであるということである。ヘルシン判決では、すでに、その製品の特徴を特許クレームとして主張する特許の出願前に販売された製品について、AIA施行後の文脈においても販売禁止条項が適用されると判示されていた。しかし本件で、セラニーズ社は、AIAはAIA施行前の販売禁止条項を変更したので、秘密の製造方法を使用して製造された製品の過去の販売は、後にその製造方法を特許化した場合でも、その製造方法に対する販売禁止条項は発動されないと主張したのである。
連邦巡回控訴裁判所は全会一致でITCの判断を支持し、セラニーズ社のすべての主張を退けた。その判断において、連邦巡回控訴裁判所は、ヘルシン判決と過去の販売禁止条項に関する裁判例に大きく依拠したXII。セラニーズ社の第一の主張を却下するにあたり、裁判所は、文言の変更は「実質的に同じ意味を持つ用語の事務的な改善に過ぎない」と判断した。同様に、裁判所は、§271および§273における特許を受けた製造方法の侵害に対する抗弁に関するセラニーズ社の文言解釈の主張も退けた。その理由として、無効性と侵害は異なる枠組みと理論的根拠によって規律されており、完全に別個のものであるため、侵害の抗弁から無効性についての法令上の制限を読み込むことは不適切であると説明したXIII。最後に、裁判所はセラニーズ社の立法経緯に関する主張を迅速に却下し、立法過程の文脈や最終的な法令の文言から切り離して立法者の見解を解釈することに対して、最高裁が繰り返し行ってきた警告に従ったXIV。
III. 重要なポイント
セラニーズ判決を踏まえ、秘密の製造方法を持つ企業は、特許による保護と、営業秘密による保護などの他の形態の知的財産保護との利点と欠点を比較検討する必要がある。そして、どのような形態の保護を追求するかを決定する際には、企業は少なくとも以下のような要因を考慮すべきである:
1. 製品の製造に使用される基礎となる秘密の製造方法の保護を求める可能性がある時点より少なくとも1年以上前に、その製品の販売実績があるかどうか。
2. 秘密の製造方法が独自に発見される可能性があるかどうか。
3. 秘密の製造方法を含む製品販売に関する機密保護措置。
4. 特許保護によって得られる排他的権利。
5. 特許による保護と、営業秘密その他の知的財産保護についての損害賠償に関する枠組みの違い。
最後に注目すべき点として、欧州特許法に従う国々など、多くの国では、秘密の製造方法を使用して製造された製品の過去の販売が、それだけでその製造方法について後に出願された特許を無効にするというアメリカ流のアプローチを採用していない。そのため、企業は、国内外で知的財産保護のどの形態を追求するかを決定する際には、グローバルな市場を考慮する必要がある。
Ⅰ Celanese Int’l Corp. v. Int’l Trade Comm’n, No. 2022-1827, 2024 WL 3747277 (Fed. Cir. Aug. 12, 2024).
Ⅱ Id. at *2-3.
Ⅲ Id.
Ⅳ Id. at *1.
Ⅴ Id.
Ⅵ Id.
VII Id.
Ⅷ Id.
IX Id. at *2.
X Id. (citing Helsinn Healthcare S.A. v. Teva Pharms. USA, Inc., 586 U.S. 123 (2019)).
XI Id. at *4 n.3 (Compare 35 U.S.C. § 102 (2006) (“A person shall be entitled to a patent unless . . . (b) the invention was . . . on sale . . . .”), with AIA § 102(a) (“A person shall be entitled to a patent unless— (1) the claimed invention was. . . on sale . . . .”).
XII Id. at *4.
XIII Id. at *5-6.
XIV Id. at 7.
クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法共同事業法律事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン
この件につきましてのお問い合わせ先
マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
chietogawa@quinnemanuel.com