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    米国裁判所はフェアユース理論、生成AIの著作権、特許権の問題に直面している
     (25/04/25)

米国の裁判所は、生成AIによって提起された多くの問題に直面している。最近判決が下されたThomson Reuters Enterprise Centre GMBH v. Ross Intelligence Inc. をはじめとする多くの訴訟は、AIへの入力、つまりAIシステムをトレーニングするために入力された(著作権で保護された)素材に関するものである。その一方で、AIの解釈、つまりAIシステムによって作成された発明、コンテンツ、ソリューションに関する訴訟も存在する。ここでは、フェアユース理論、著作権、および特許権についての米国法を示した最近の訴訟をいくつか紹介する。



フェアユース理論-Thomson Reuters Enter. Ctr. GmbH v. Ross Intel., Inc.

2025年2月11日、デラウェア州連邦地方裁判所は、Thomson Reuters Enter. Ctr. GmbH v. Ross Intel., Inc. の訴訟において、Thomson Reutersによる部分的略式判決の申立てを認め、Ross Intelのフェアユース抗弁を法律上の理由により却下した。2025 WL 458520(D. Del. 2025年2月11日)。この訴訟は、フェアユース理論がAIに関する著作権侵害の主張にどのように適用されるかという点に関する最初の事案の一つであることから、AI法律コミュニティの注目を集めている。

問題は、被告Ross Intelが法務アウトソーシング会社であるLegalEaseから約25,000件の「バルクメモ」を購入して、Thomson Reutersの法的研究プラットフォームWestlawと直接競合する法的AI検索エンジンを開発するのためのトレーニングデータとして使用したことによって発生した。この「バルクメモ」は弁護士によって作成されたもので、その一部にThomson ReutersのWestlawのヘッドノート(事件の重要な要点や法的ポイントの簡潔な要約)を使用していた。原告Thomson Reutersは、Ross IntelのAI検索エンジンのトレーニングデータとして彼らの著作物を利用することは、登録されている彼らの著作権を直接侵害していると主張した。

デラウェア州の米国地方裁判所はThomson Reutersに部分的略式判決を認め、Ross IntelはThomson Reutersの2,243件のヘッドノートを侵害したと判断したが、この訴訟で最も注目されていた部分は、RossがバルクメモをAI検索エンジンに使用したことがフェアユースに該当するかどうかという点であった。フェアユース理論の下では、他者の著作物を一定の目的で使用することは著作権の侵害にはならないとされているからである。そして使用がフェアであるかどうかを判断する際に、裁判所は以下に挙げる4つの非排他的なファクターを考慮する。「(1)使用の目的と性質(商業的か非営利的かを含む)、(2)著作権で保護されている作品の性質、(3)作品中のどれだけの部分が使用され、それは著作権で保護されている作品全体に対してどれだけ実質的なものであったか、(4)被告による使用が著作権の対象となっている作品の価値や潜在的市場にどのように影響したか」。Id. at *7 (17 U.S.C. § 107(1)–(4)を引用)。そして裁判所は、これらのうち1と4のファクターでThomson Reutersの主張が認められるため、「全体的なバランスにおいて最も重要なこれらの2つのファクター」で、Rossのフェアユースによる抗弁は法的に認められないと判断した。Id。

ファクター1について裁判所は、Ross自身がそれを認めていたこと、そしてRossがWestlawのヘッドノートの無断使用から利益を得る立場にあったことから、その使用が商業的であると容易に判断できるとした。裁判所はまた、Rossの使用はThomson Reutersの「目的や性質とは異なる」ものではなかったため、変形的なものではないと判断した。Id(Andy Warhol Found. for the Visual Arts, Inc. v. Goldsmith, 598 U.S. 508, 529(2023)を引用)。裁判所はさらに、問題の技術が生成AI(自ら新しいコンテンツを作成するAI)についてのものではなく、すでに別の者によって作成されている法律意見書を下に、それに関連する別の法律意見書を生成するように設計されており、かつ問題の複製は中間的なもの―「Rossがヘッドノートを法律用語間の関係に関する数値データに変換してAIに供給した」際に発生するもの—であるため、さらなる分析が必要であると判断した。Ross, 2025 WL 458520, *7。裁判所は、コンピュータプログラムの中間的な複製に関するフェアユース判決に依存するRossの主張を、下記の二つの重要な根拠に基づいて、この事案をGoogle LLC v. Oracle Am., Inc. のような過去の事案と区別することによって却下した。(1)これらの過去の事例は、書かれたテキストではなく、主に機能的目的のためにコンピュータコードを複製することを含んでいた。そして、(2)これらの過去の事例における中間的な複製は、競合他社が基礎となるアイデアにアクセスしイノベーションを促進するために「必要」であった。Id. at *7–8。

第4のファクター、すなわち原作品の現在および潜在的な派生市場に対するRossの複製の影響(「フェアユースの単一で最も重要なファクター」と表現されている)については、裁判所はRossがWestlawと直接競合するようにAI検索を設計したため、Ross IntelのフェアユースによるAffirmative Defense(積極的抗弁)を支持するような判決は、法的研究市場と法的AIトレーニングの新興市場の両方に重大な影響を与えることになってしまうと判断した。Id. at *9(Harper & Row Pubs., Inc. v. Nation Enters., 471 U.S. 539, 566(1985)を引用)。
裁判所は、これと異なる内容の判決を正当化するような公共の利益を見出すことができなかった。すなわち、この点について裁判所は「法律へのアクセスにおける公共の利益」を認めたものの、「法的意見は自由に入手可能である」として、「Thomson Reutersが作成したもので、RossがThomson Reutersの著作権を侵害せずに自ら作成できなかったもの、あるいはLegalEaseに作成を依頼できなかったものは何もない」と付け加えた。Id. at *10 。そしてこれらの全ての4つのファクターを考慮して、ビバス判事はフェアユースに関してThomson Reutersの申し立てた略式判決を認めたのである。

なお、本件についてのトライアルは2025年5月12日の週に開始される予定である。
この判決は、特に使用が変形的でなく原作品の市場に影響を与える場合には、著作権で保護されたコンテンツを使用して競合製品を作成するAI開発者をフェアユース理論が保護しない可能性があることを示している。また今後、裁判所がフェアユース抗弁を分析する際に、現在の市場への影響だけでなく、AIトレーニングデータの潜在的な将来市場も考慮する可能性があることも示している。



生成AIの出力と著作権所有権-Thale v. Perlmutter

著作権法は、「著作権の元となるオリジナル作品」を著作権によって保護している。17 U.S.C. § 102(a)。法令では「著作者」または「著作権」という用語は定義されていないが、裁判所は自然人のみを著作者として認めてきた。作品の作成を助けるための機械の使用は明文で認められているが、米国著作権局(「USCO」)は通常、「作品」が自然人によって構想され実行されており、機械がその作品を作成するための「補助的な道具」として機能していることを登録の前提条件としてきた。U.S. Copyright Office, Sixty-Eighth Annual Report of the Register of Copyrights for the Fiscal Year Ending June 30, 1965, at 5 (1966), https://www.copyright.gov/reports/annual/archive/ar-1965.pdf. そのため、新しい作品を作成する際の生成AIツールの使用は、その作品が自然人によって著作されたとみなされるためにはどの程度の自然人の介入が必要かという新たな問題を提起している。

これらの問題は現在、連邦裁判所で審理されている。2024年9月19日、コロンビア特別区の連邦控訴裁判所は、AIによって生成された画像が著作権登録の対象となり得るかという問題を提起したThaler v. Perlmutterの案件について審理した。控訴人のStephan Thaler博士は、「創造性マシン」と名付けた彼のAIシステムによって自律的に生成されたと主張する画像の著作権を登録しようとしたが、USCOは作品に自然人の著作者が存在しないことを理由に申請を却下した。彼が申し立てた最初の再考請求において、Thalerは、作品が「自律的に生成された」ものであり、「伝統的な自然人の著作者を欠いている」ことを認めた。First Request for Reconsideration at 2, ECF No. 13-5。つまり、彼は自然人が作品の作成に役割を果たしたと主張しようとはせず、代わりに、作品は自然人の著作者によって登録されるべきだというUSCOの長年の要件に異議を唱え、AIは著作者として認められ、作品の著作権はAIの所有者に帰属すべきだと主張したのである。

しかし、裁判所とUSCOは、AI出力を含む作品に対して自然人の著作者が創造的なコントロールを有していると主張する場合に何が起こるかというより難しい問題にも対処しなければならない。例えば、コロラド州連邦地方裁判所のAllen V. Perlmutterの事案では、アーティストのJason Allenが、AIプログラムMidjourneyを使用して彼が作成したと主張するAI支援のアートワークの著作権の登録を申請した。ここでAllenは、(AIが作品を著作したと申請者が述べた)Thalerとは異なり、Allenは非常に詳細な説明を行ってAIツールに画像を開発するよう指示し、作品が完成したと判断するまでに繰り返し反復を行ったため、彼自身が著作者であると主張している。Complaint 17, Allen V. Perlmutter, Case No. 1:24-cv-02665 (D. Colo. filed [date] 2024) 参照。すなわちAllenは自分が著作者であり、AIは単に彼の創造的なビジョンの実行を支援しているだけだと主張しているのである。

しかし、USCOはAllenのこの主張は容れないであろう。2024年1月30日、USCOは生成AIを使用して作成された作品の著作権の適格性に関する著作権と人工知能レポートの第2部を発表した。このレポートでは、USCOは昨年発表したガイダンスの立場を再確認し、「純粋にAIによって生成された」作品や「十分な」人間のコントロールを欠く作品は引き続き著作権の対象にならないとしている。そして、不十分な人間のコントロールを含む作品には、「プロンプトのみ」を使用して作成された作品が含まれるとしている。



生成AIの出力と特許適格性 –Thaler v. Vidal

米国および他のほとんどの国では、人間の支援なしにAIによって開発された新しい発明やイノベーションは特許権の対象とはならない。米国、イギリス、EU、オーストラリア、日本、韓国、ニュージーランドの裁判所は、特許権との関係おいてAIは発明者とみなされないと明示的に判断している。2022年、米国連邦巡回控訴裁判所はThaler v. Vidal(Thaler v. Perlmutterと並行する事例)において、AIは特許出願書における発明者として記載することはできないと判断した。Thaler v. Perlmutterと類似のシナリオで、Thalerは自身が所有するDevice for the Autonomous Bootstrapping of Unified Sentience(通称「DABUS」)というAIシステムが「発明した」、神経活動を模倣する点滅ライト、およびロボットがより簡単に握れるように設計された飲料容器についての特許を出願した。米国特許商標庁(「USPTO」)は特許法が「発明者を自然人に限定している」ことを根拠にこれらの出願を拒否した。Thaler v. Vidalは米国連邦巡回控訴裁判所において審理されており、当事者は2022年6月6日に口頭弁論が行われた。

Thalerは、特許法の目標はイノベーションを促進することであるため、誰が、または何が発明者であるかについて法は無関心であると主張し、これについて法律の「発明がなされた方法によって特許性が否定されることはない」という文言を引用した。35 U.S.C. § 103(2022)。Thalerはまた、研究と設計においてますますAIに依存している医療や製薬などの産業が存在することを指摘した。新しいAI開発の発明に対して特許を拒否することによって彼らの投資を軽視することは、新しい研究ツールの使用を阻害することになる。最終的に、連邦控訴裁判所はUSPTOの側に立ち、発明者は「個人」であると明示的に規定している、特許法の解釈についてより文言主義的なアプローチを採用した。Id. § 100(f)。そして裁判所は「個人」という用語が、議会がこれとは別の解釈を意図していたという証拠がない限り、自然人を指すという長い先例の歴史を引用した。Thaler v. Vidal, 43 F.4th 1207, 1211(Fed. Cir. 2022)。

この事例は、特許の独立した発明者としてのAIに対する米国裁判所の現在の姿勢を示している。しかし、2024年初頭に、USPTOはAI支援発明の特許適格性に関する発明者ガイダンスを発表し、そこでは「自然人によるAIシステムの使用は、自然人が発明に重要な貢献をした場合、発明者または共同発明者として自然人が発明者として認められることを妨げない」とされている。AI支援発明の発明者ガイダンス、90 Fed. Reg. 10.043(2024年2月13日)。USPTOはさらに、人間の貢献の重要性はPannuファクターによって測定されると説明した。これは発明者が、「(1)発明の着想または実施への重要な方法で貢献し、(2)その貢献が発明全体に対して質的に重要な貢献をしており、(3)単に実際の発明者に周知の概念や現在の技術水準を説明するだけに留まらない」ことを要求している。Pannu v. Iolab Corp., 155 F.3d 1344, 1351(Fed. Cir. 1998)。著作権の著作者と同様に、発明者がイノベーションのためにAIツールをますます使用するにつれ、彼らの発明の特許性は、発明者が自分の創造性やアイデアをAIのプロンプトに統合する方法だけでなく、AIの生成出力に拠って定められることになる。



結論

生成AIと法律の交差する領域はますます複雑になっており、裁判所は著作権、特許権、および責任に関する重要な問題に直面している。Thalerの事例は、特に著作権および特許法において、伝統的に自然人の行為者のために構築された枠組みの中でAIの役割を定義するための継続的な闘いを示している。米国の裁判所は知的財産保護のための人間の関与の必要性を大部分で再確認しているが、これらの判決は、人間の創造性とイノベーションにおけるAIツールの使用を考慮するために既存の法令を適応させるという課題について強調している。
AIシステムがより洗練されるにつれ、その変革についての可能性は既存の法的枠組みの境界を押し広げ続けることであろう。裁判所や規制機関は、イノベーションが倫理的考慮と公平性とバランスを取ることを確保するという重要な任務に直面している。そしてこれらの訴訟の結果と新たな立法指針は、生成AIの将来の景観と社会におけるその役割を形作り続けてゆくであろう。





クイン・エマニュエル・アークハート・サリバン
外国法共同事業法律事務所
東京オフィス代表 ライアン・ゴールドスティン



この件につきましてのお問い合わせ先

マーケティング・ディレクター 外川智恵(とがわちえ)
chietogawa@quinnemanuel.com

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